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ふなせいトピックス

ふなせいトピックス一覧

2024.08.23

ふなせいコラム:人工関節

 

「人工股関節置換術」について

当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1.人工股関節置換術はどんな手術? 2.人工股関節の寿命はどのくらい? 3.人工股関節置換術を受けるタイミングは? 4.人工股関節置換術後の生活は?   1.人工股関節置換術はどんな手術? 加齢や疾病、怪我などによって傷んでしまった股関節の骨を、人工関節に置き換える手術です。   図1 人工股関節           図2 手術後のレントゲン                                                 反対の股関節も変形性股関節症になっています   2.人工股関節の寿命はどのくらい? 以前の人工関節は15-20年くらいの耐久年数とされていました。 しかし現在は、人工関節に用いられている素材の進化によって飛躍的に長くなり、すり減り(摩耗)については30-40年、実験のデータでは50年とも言われるようになってきました。(*参考文献) 一方で骨折や感染などの原因によって入れ替え手術が必要となることもあり、骨粗鬆症の予防や健康的なライフスタイルの維持も、人工関節を長持ちさせるために大切です。     3.人工股関節置換術を受けるタイミングは? 以前は大がかりな人工関節の入れ替え手術(再置換手術)を避けるため、手術の対象は60歳以上と言われていました。 しかし人工関節が長持ちするようになったこと、人工関節の機能と手術方法が進化し短期間でアクティブな生活へ復帰しやすくなったこと、手術方法や機器の改良により低侵襲で再置換手術も行えるようになっていることより、他に有効な治療法がなければ30-40歳であっても人工関節置換術を受ける方が増えてきています。 また一つの関節の痛みを長期間にわたって我慢していると他の関節(腰椎など)も負担がかかり、将来的に複数の関節の手術を受けなくてはいけなくなることもあり、いたずらに痛みを我慢し続けるのも問題があると考えます。     4.人工股関節置換術後の生活は? 手術後の生活は手術方法や手術を行う施設によって異なります。 当院では全ての方に対し最小侵襲手術(MIS)にて行っており、約1週間の入院で歩行が自立し退院することができます。術後は段階的に運動を許可しており、術後3か月以降は運動、動作に制限を設けておりません。 健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)を伸ばし、元気でアクティブな人生を満喫するためにも、運動習慣を維持することは大切と考えています。 安全で侵襲の少ない手術は外科医の技量によるところも大きく、しっかりとトレーニングを受けた医師から手術を受けることが望ましいでしょう。   執筆者 医師:三浦陽子       *参考文献 1. K. Uetsuki, et al. Simultaneous improvement in the mechanical strength and oxidative resistance of Vitamin E blended UHMWPE. Proc. 58th Annu. Meet. Orthop. Res. Soc., 2012: 1073 2. M. Kyomoto, T. Moro, K. Saiga, M. Hashimoto, H. Ito, H. Kawaguchi, Y. Takatori, K. Ishihara. "Biomimetic hydration lubrication with various polyelectrolyte layers on crosslinked polyethylene orthopedic bearing materials." Biomaterials 33.18(2012): 4451-4459. 3. Rames, R. D., Stambough, J. B., Pashos, G. E., Maloney, W. J., Martell, J. M., & Clohisy, J. C. (2019). Fifteen-year results of total hip arthroplasty with cobalt-chromium femoral heads on highly cross-linked polyethylene in patients 50 years and less. The Journal of Arthroplasty, 34(6), 1143-1149.

2024.07.05

ふなせいコラム:肘

 

成長期の「内側野球肘」:診断と治療法

はじめに 野球を楽しむ小中学生のみなさん、今日は「内側野球肘」という怪我についてお話しします。「内側野球肘」の症状、診断方法、治療法、そして予防策について、わかりやすく説明します。 (当コラムはふなせいの医師が解説 野球肘の症状と治療法でも触れた「内側野球肘」について、成長期にスポットを当てた内容となります。)   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   「内側野球肘」とは? 「内側野球肘」は、野球をしている子どもたちによく見られる肘の怪我です。特にピッチャーやキャッチャーのようにたくさんボールを投げることで、肘の内側に負担がかかって起きてしまいます。特に成長期の子どもたちは、骨がまだ完全に成長していないので、骨端線(成長線)に負担がかかり、投げるたびに痛みが出る状態をいいます。   内側野球肘の症状 「内側野球肘」の主な症状は、肘の内側の痛みです。痛みは最初は少しだけですが、だんだんひどくなり、特に投げるときに強く感じることが多いです。ひどくなると、肘の曲げ伸ばしがしづらくなることもあります。   「内側野球肘」の診断方法 「内側野球肘」かどうかを調べるために、肘の内側の骨の出っ張りが押して痛いかを確認します。またレントゲン検査や超音波検査も行います。これで、骨や靭帯、筋肉がどうなっているかを確認します。特に骨端線(成長線)が残っている場合は、靭帯の損傷ではなく、骨端線(成長線)や軟骨が痛んでいることが多いです。   「内側野球肘」の治療法 「内側野球肘」の治療の基本は、まず肘を休めることです。肘の内側の痛みが取れるまで、または肘の曲げ伸ばしの痛みがなくなるまで、投げるのをやめることが大切です。この間に肘に負担がかかった原因を見つけ、投げ方の見直しや練習量の調整など、再発を防ぐための対策を考えることが重要です。   「内側野球肘」の予防策 「内側野球肘」を防ぐためには、肘に負担がかからない投げ方を覚えることが大切です。また、練習量を調整して、肘に負担がかかりすぎないようにすることも必要です。適切なストレッチや筋力トレーニングを行い、体の柔軟性を保つことも効果的です。   まとめ 「内側野球肘」は、成長期の子どもたちによく見られる怪我ですが、適切な診断と治療、そして予防策を実施することで回復が期待できます。特に骨端線(成長線)の状態を確認し、適切な休息期間を設けることが重要です。また、肘に負担がかからない投げ方を覚え、投げすぎを防ぐことも再発防止につながります。親や指導者は、子どもたちの体の変化に注意を払い、早期発見と適切な対応を心がけることが大切です。 このコラムを通じて、内側野球肘についての理解が深まり、みなさんが安全に野球を楽しむための手助けになれば幸いです。 さらに詳しい情報については、以下のリンクをご覧ください。 ほっしゃん先生の肩肘ラボ #1 【内側野球肘】 学童期   執筆者 医師:星加昭太

2024.05.31

ふなせいコラム:腰

 

成長期のスポーツ選手に多い腰椎分離症の症状と治療方法について

はじめに  今回のコラムでは医師監修のもと理学療法士が腰椎分離症について解説していきたいと思います。 当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1. 腰椎分離症とは 2. 腰椎分離症の症状 3. 腰椎分離症の検査方法 4. 腰椎分離症の治療法 5. 骨癒合率と癒合期間 6. さいごに   1. 腰椎分離症とは  腰椎分離症とは、スポーツなどで身体を反る動きやひねる動きを繰り返すことによって腰椎(背骨の下部)の椎弓という部分に負担がかかり生じる疲労骨折のことです。スポーツをしている10代に多く、成長期の腰痛のうち29.9〜55.2%が腰椎分離症である1,2,3)といわれています。    腰椎分離症は、疲労骨折の進行度で病期が分けられます。骨髄浮腫のある超早期に始まり、初期、進行期、終末期と疲労骨折が進行していきます。   2. 腰椎分離症の症状  スポーツ時の腰痛が主な症状で、特に身体を反る動きやひねる動きで痛みが出ることが多いです。運動時以外では腰痛は気にならないことが多いですが、無理に競技を続けているうちに、立つ・座るなどの日常的な動きでも痛みが出るようになる方もいます。発見が遅くなるほど骨折部位がつかず偽関節となってしまう可能性が高くなるので早期発見・早期治療が重要です。          3. 腰椎分離症の検査方法  レントゲン、CT、MRI検査にて画像診断を行い、骨折の有無と部位を確認します。一般的にはCT検査で骨折線の状態(いわゆるヒビなのか完全に折れているのか)を把握することで病期(患部の状態)を分類し、治療方針を立てます。しかし、CT検査は電離放射線被ばくを伴う検査で、小児は成人と比較して放射線被ばくの影響が出やすく、成長期の患者様の診療においては極力その機会を減らすべきであるといわれています4)。そのため、当院ではCT検査の代わりにFRACTUREというCT類似MRI5)を用いることで放射線被ばくのない腰椎分離症診療を行っています。   4. 腰椎分離症の治療法  治療用装具を使用して固定し、骨癒合(骨がつくこと)を目指す保存療法が一般的です。疲労骨折の骨吸収期である1ヵ月間は患部を安静にします。装具固定期間は治療用装具を用いて患部を保護します。病期(患部の状態)に合わせて段階的に運動療法(ストレッチや体幹トレーニング、スポーツ動作練習など)を行います。  患部の状態によっては骨癒合が得られる可能性が非常に少ない場合があります。その場合は骨癒合より症状の改善(スポーツ活動時の痛み改善など)を優先し、痛みに合わせて運動療法を行い、スポーツ復帰を目指します。   治療用装具(硬性コルセット) 当院では硬性コルセットを装着した状態で積極的に胸郭・股関節・下肢の柔軟性改善運動および体幹安定運動を行い、骨癒合に影響なくスポーツに復帰しています6)。    運動療法の例6)       当院における病期ごとの治療スケジュール6)   5. 骨癒合率と癒合期間  治療開始時の病期によって骨癒合率(骨がつく可能性)、癒合期間(骨がつくまでにかかる期間)が異なります。個人差はありますが、一般的にいわれている骨癒合率と癒合期間を示します。表およびグラフのとおり、病期によって骨癒合率7,8)・癒合期間9)が大きく異なります。   病期別の骨癒合率7) ※偽両側とは、すでに終末期分離がある反対側の椎弓に新たに分離が発生したため両側分離に見えるものとしています。   病期別の骨癒合期間8), 9)   6. さいごに  成長期の腰痛は腰椎分離症である可能性があり、医療機関で早期に適切な診断・治療を行うことが骨癒合のために重要です。骨癒合が難しい場合でも専門医の診断を受けリハビリテーションを行うことで、再び痛みなくスポーツができるようになります。当院では船橋整形外科クリニック、西船クリニック、市川クリニックの3施設で、療法士が身体の状態を個別に評価し、一人一人に即したリハビリテーションを提供させていただいております。スポーツ時の腰痛は安易に放置せず、早めの受診をお勧めいたします。   執筆者 理学診療部(監修:畠山健次医師 脊椎脊髄センター長)   引用文献 1)大場俊二ら.腰椎疲労骨折の早期診断と早期スポーツ復帰.日本臨床スポーツ医学会誌.2007; 15: 429-440. 2)兼子秀人ら.成長期腰椎分離症(疲労骨折)の保存療法における治療成績と問題点.日本整形外科スポーツ医学会誌.2019; 39: 263-268. 3)酒巻忠範ら.発育期腰椎分離症の早期診断と保存療法のポイント.整形・災害外科.2012; 55:467-475 4)木下大ら.腰椎分離症の画像診断の歴史と進歩.関節外科.2024; 43(5): 486-493. 5)Johnson B et al. Fast field echo resembling a CT using restricted echo-spacing(FRACTURE): a novel MRI technique with superior bone contrast. Skeletal Radiol 2021;50:1705-13. 6)畠山健次ら.分離部の骨癒合を目的とした装具療法と運動療法.関節外科.2024; 43(5): 543-549. 7)畠山健次.骨癒合を目的とした装具療法と運動療法.臨床スポーツ医学.2019; 36: 1114-1115. 8)西良浩一 : 腰椎分離症―Spine Surgeonが知っておくべきState of the Art―. 脊髄外科 25 : 119-129, 2011 9)寺門 淳ら : 当院における中高生の腰椎分離症の癒合率調査(第一報)―片側例に対する半硬性コルセットによる治療―. Journal of Spine Research 14(6) : 959-965, 2023  

2024.03.29

ふなせいコラム:腰

 

腰椎椎間板ヘルニアの手術療法について整形外科医が解説

今回のコラムでは船橋整形外科グループの脊椎・脊髄センター医師が腰椎椎間板ヘルニアの手術療法について解説させて頂きます。 (前回コラム「腰椎椎間板ヘルニアの症状と治療方法について整形外科医が解説」の続きとなっております。)   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 ・腰椎椎間板ヘルニアに対して当院で行っている手術療法 ・腰椎椎間板ヘルニア摘出術(Love法) ・全内視鏡下腰椎椎間板摘出術(FED)     腰椎椎間板ヘルニアに対して当院で行っている手術療法  保存療法を行っても症状が改善しない、悪化してしまう方などには手術を行うこともあります。当院では主に顕微鏡下あるいはサージカルルーペ使用による椎間板ヘルニア摘出術(Love法)を行っております。この手術は椎間板ヘルニアを取り出し、神経への圧迫を取り除く手術です。  更に最近では、患者さんの状態によって、より小さな傷で手術可能な全内視鏡下腰椎椎間板摘出術も行っております。以下ではそれら2つの手術について解説していきたいと思います。   椎間板ヘルニア摘出術(Love法)  椎間板ヘルニアによる神経の圧迫症状が強い場合に行われます。手術は全身麻酔をかけて、腹臥位(うつ伏せ)で行います。手術による傷の大きさは、約3〜5㎝です。また手術中は椎間板の位置を確認するために、レントゲン透視装置を使用します。  椎間板ヘルニア摘出術(Love法)では腰椎周囲の筋肉を剥離して、腰椎に後方より到達します。そして、骨と黄色靭帯の一部を削り、硬膜に包まれた神経を避けて、椎間板ヘルニアを摘出し、十分に神経の圧迫が解除(除圧)されたことを確認し終了となります。  手術時間は1か所で通常1〜1.5時間程度ですが、麻酔や手術のセッティングを含めますと病棟に戻るまでおよそ2.5時間前後です。  手術直後は、ベッド上にて過ごしていただきますが、数時間後より問題なければトイレへの歩行など可能です。翌日よりリハビリにて立位歩行訓練を開始します。階段昇降が可能であれば早期に退院可能です。平均、術後5日ほどの退院が可能です。  退院後の生活ですが、自宅療養期間は、通常の場合、術後2週間〜1か月程度です。コルセットは術後1〜2か月間使用する必要があります。スポーツ復帰や重量物の挙上は術後3か月が目安となります。通院は、術後2週、1、3、6、12か月です。  いわゆるLove法の図(皮切は3~5㎝程度)     全内視鏡下腰椎椎間板摘出術(FED)  現在、限られた患者さんで行っている手術になります。内視鏡を使用して椎間板ヘルニアを摘出しますので、椎間板ヘルニア摘出術(Love法)に比較しいくつかの利点があります。 1.手術の傷が小さい(約7~8mm程度) 2.手術後の痛みが少ない 3.傷感染のリスクが低い  手術の流れとしては、全身麻酔を行った後、術中の神経の動きを確認する神経モニターを患者さんに取り付けます。そして椎間板の位置が手術中にわかるようにレントゲン透視装置を使用して造影剤と染色剤を使用して染色します。手術中はレントゲン透視装置と神経モニターを使用し椎間板の正しい位置に器械が挿入されているか確認しながら手術を行います。  FEDには、主に2つの方法があります。  腰椎の真後ろから椎間板にアプローチするインターラミナル(IL)法と腰椎の斜め後ろから椎間板にアプローチするトランスフォラミナル(TF)法があります。ヘルニアの存在する腰椎のレベルや圧迫している神経の位置やヘルニアの大きさなどからIL法とTF法を使い分けております。  手術中に解剖学的な問題や硬膜損傷、機器トラブルなどの内視鏡手術の継続が不可能であると判断した場合には、Love法(通常の切開手術)へ変更する場合もあります。  手術時間は1か所で通常1〜2時間程度ですが、麻酔や手術のセッティングを含めますと病棟に戻るまでおよそ2.5時間前後です。手術後の痛みも軽く、術後2~3時間から歩行が可能となり、術後2日ほどで退院することができます。  現時点では適応症例を厳選して行っており、すべての椎間板ヘルニア症例へ適応しているわけではありません。             FED法の図(皮切は8mm程度)        IL法              TF法   椎間板ヘルニア摘出術(Love法)と全内視鏡下腰椎椎間板摘出術(FED)、両術式ともに保険適応です。手術費用についてはこちらをご確認ください(Love法は椎間板摘出手術として記載してあります。FEDにつきましては、適応となった方のみにお伝えしておりますので予めご了承ください)。   執筆者 医師:小島敦   

2024.01.26

ふなせいコラム:腰

 

腰椎椎間板ヘルニアの症状と治療方法について整形外科医が解説

今回のコラムでは船橋整形外科グループの脊椎・脊髄センター医師が腰椎椎間板ヘルニアの症状と治療方法について解説していきたいと思います。   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。     目次 ・ 人の脊椎(背骨)と椎間板について解説 ・ 腰椎椎間板ヘルニアとは? ・ 腰椎椎間板ヘルニアの検査方法 ・ 腰椎椎間板ヘルニアの症状とは? ・ 腰椎椎間板ヘルニアの治療法 ・ 腰椎椎間板ヘルニアに対しての主な保存療法 ・ 椎間板内酵素注入療法とは? ・ 椎間板内酵素注入療法の治療手順      人の脊椎(背骨)と椎間板について解説  まずは人間の脊椎(背骨)と椎間板について簡単に説明させていただきます。そのあと、腰椎椎間板ヘルニアとはどういった病気なのか解説させていただきます。  通常脊椎は、頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙骨から構成されています。脊椎は椎骨という骨が積み重なってできており、椎間板はその間にあるクッションを指します。椎間板の中心に髄核があり、周囲を線維輪が囲んでいます。      腰椎椎間板ヘルニアとは?  椎間板に何らかのきっかけで負担がかかり、線維輪から髄核が飛び出すことがあります。この突出した部分がヘルニアと呼ばれています。ヘルニアが神経を圧迫すると下肢の痛みやしびれなどの症状が出現します。なお悪い姿勢での作業や喫煙などでヘルニアが起こりやすくなります。   腰椎椎間板ヘルニアの検査方法  まず画像診断を行う前に徒手的検査を行います。下肢の感覚異常の有無や筋力低下のチェック(神経学的検査)、下肢伸展挙上試験(SLRテスト)、大腿神経伸展試験(FNSテスト)を行います。  画像診断では椎間板はレントゲンには写らないため、MRI検査が有効とされています。MRI検査は神経や筋肉を描写することができるため椎間板ヘルニアの検査に適しています。また、放射線を用いないため身体に対しても低侵襲です。他にも状態に応じてCT検査や、造影剤を注射するミエログラフィ検査なども行われることがあります。   椎間板ヘルニアの症状とは?  片側の足に痛みやしびれなどの症状ができることが多いです。ふくらはぎやすねの外側などに痛みがみられます。また、痛みだけでなく筋力低下が生じ、足を持ち上げにくいなどの症状が出ることもあります。さらに重症の場合では尿が出にくいなどの症状(排尿障害)が生じることもあります。   腰椎椎間板ヘルニアの治療法  重症でない場合は手術ではなく保存療法からはじめるのが一般的です。保存療法で経過を見てゆくうちに症状が治まることもあり、長期的にはヘルニアが自然に縮小することもあります。保存療法で効果が認められない場合や重症の場合は手術療法が検討されます。なお、排尿障害や排せつ障害は生じた場合は緊急で手術を行うこともあります。   腰椎椎間板ヘルニアに対しての主な保存療法 ① 安静 腰に負担のかかる動作を避け、症状が緩和する姿勢をとるようにします。 ② 装具療法(コルセット) コルセットにより腰を固定し、腰部にかかる負担を減らします。 ③ 薬物治療 炎症を抑えるために鎮痛薬などを服用するのが一般的です。また湿布薬や塗り薬などの外用薬を併用することもあります。 ④ リハビリ ある程度痛みが緩和してくれば、腰部にかかる負担を減らすよう、ストレッチや腹圧を高める体操などを行います。 ⑤ 神経ブロック 痛みを生じている神経やその周辺に局所麻酔やステロイド薬などの薬剤を注射します。   椎間板内酵素注入療法とは?   当院では薬剤を椎間板に注入する椎間板内酵素注入療法と呼ばれる治療方法も行っております(手術療法とは異なります)。椎間板内に酵素を含んだ薬剤のヘルニコア®を直接注射して、ヘルニアによる神経の圧迫をやわらげます。ヘルニコア®を注入すると髄核内の保水成分が分解され、髄核の膨らみが緩和されます。入院期間は1泊2日となります。   椎間板内酵素注入療法の治療手順 ① 手術室で局所麻酔下に行います。レントゲン透視装置で椎間板ヘルニアのある椎間板を確認しながら、針を刺す場所を決めます。 ② 針を刺す位置を消毒し、皮膚と皮下組織に局所麻酔薬を注入します。 ③ 椎間板ヘルニアのある椎間板内に針を刺し、ヘルニコア®を注射します。 ④ しばらく安静にします。薬による副作用がないかなどの確認をします。 ⑤ 当院では、1泊入院し、翌朝問題がなければ退院帰宅できます。   【注意点】 過去にヘルニコア®による治療を受けた方は再度受けることはできません。またアレルギー体質の方や他の脊椎疾患が合併している方は注意が必要なので治療前に医師への相談が必要になります。     次回は「腰椎椎間板ヘルニアの手術療法について整形外科医が解説」を掲載させていただきます。   執筆者 医師:小島敦

2023.11.09

ふなせいコラム:背中

 

側弯症(小児例)について

はじめに 船橋整形外科クリニックで2019年から側弯症専門外来を開設いたしました(月1回土曜日午前中)。側弯症(主に小児例)について解説いたします。   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   脊柱(せぼね)は通常、正面からみるとほぼまっすぐですが、脊柱が横方向に曲がり、ねじれを伴う状態を側弯症といいます。 自覚症状は無く、側弯症の大部分は学童期から思春期に発生し、学校検診で指摘されて受診されることが大半です。成長に伴い悪化することがあるため、早期の発見と管理が重要です。   詳細は日本脊柱変形協会(http://j-sdi.org/patient_and_family/)、日本側彎症学会(https://www.sokuwan.jp/patient/)のホームページにも記載がありますので、ご参照ください。   Q & A *原因は?  側弯症の約8割を原因不明の特発性側弯症が占めます。残りの2割が先天的に背骨の奇形があるもの、脳性麻痺、筋ジストロフィーやマルファン症候群などの疾患によるものなど、原因が判明しているものがあります。病因の一部に遺伝の影響があると考えられており、特発性側弯症患者の家族内にもしばしば側弯症患者がいることがあります。   *早期に発見するためには? ご家庭でもできるチェックがあります。 ・真っ直ぐに立たせた状態で背中を観察します。 まっすぐに立った状態で肩の高さ、肩甲骨の高さに差がある、ウエストが片方だけくびれて左右差がある。   ・両腕を前に垂らした状態で背中をおじぎさせて、前か後ろから確認します。 肩、背中、腰の高さに左右差がある。   これらのことが確認されましたら、側弯症の疑いがありますので専門医にチェックしてもらう方が良いと思われます。   *側弯症で何が問題になるのか? 学童期や思春期には自覚症状が無いことがほとんどですが、側弯症が進行し成年期になると加齢による変化も加わり腰背部痛で日常生活が困難になることがあります。 また、側弯が高度になると呼吸機能低下につながることがあり、肺活量の減少や息切れを感じるようになることがあります。   *治療はどのようなことを行うか? 側弯症の程度と年齢を考慮して治療法を選択していきます。   ・側弯が25度未満の場合には定期的なX線検査と診察を行います。 ・側弯が25度以上で、かつ成長期で側弯の進行が予測される場合には進行防止のために装具治療(写真のような硬性装具)を行います。   ・側弯が40度もしくは45度以上の高度になる場合には手術加療を視野に入れていきます。その場合には側弯症手術専門の病院に紹介いたします。     運動器検診で指摘されたり、ご家庭のチェックで側弯症が疑われる方がおりましたら、側弯症専門外来受診をお勧めいたします(船橋クリニック:月1回土曜日午前中)。   執筆医師:飯島靖

2023.06.02

ふなせいコラム:膝

 

変形性膝関節症の保存療法② ~リハビリについて~

  はじめに    膝に痛みのある患者さんに向けて、膝関節のリハビリテーションについて解説したいと思います。 当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1.身体機能のチェックポイントについて  ・膝関節伸展テスト  ・立ち上がりテスト 2.リハビリテーションについて 3.運動療法の効果について 4.まとめ   1.身体機能のチェックポイントについて    膝の痛みを減らすには自分の身体を知ることが重要になります。ここでは柔軟性、筋力のチェック方法について解説したいと思います。 ○チェックポイント ①膝関節伸展テスト(図1)  ・床に膝を伸ばして座り、床と膝の間に隙間が無いかを確認します。 判定:床と膝の間に隙間が無ければ正常。    隙間がある場合は下肢後面の柔軟性が低下しています。 図1 ②立ち上がりテスト(図2)  下半身筋力・バランス能力がわかります。  測定方法:台に座り、胸の前で腕を組み立ち上がります。(図2)  ※壁や机の近くで行い、転倒に注意してください。   図2 判定:台の高さによってできる動作が変わってきます。(図3) 図3 ○大腿四頭筋、殿筋について  立ち上がりで必要な筋肉はもも前にある大腿四頭筋、おしりの殿筋です。それぞれがどんな役割を持っているのかを解説します。 ・大腿四頭筋は歩行などで膝にかかる衝撃を吸収する役割があり、膝にかかる様々な負担を軽減することができます。 ・殿筋はお尻についている筋肉で身体を支えたり、バランスを保つ役割(図4)があり、動作時の安定性が向上します。これらの筋肉をトレーニングすることで膝へのストレスが軽減し、日常生活の質を高めることができます。   図4   2.リハビリテーションについて  変形性膝関節症の保存的なリハビリテーションには運動療法が有効になります。上記の身体のチェックで2つの項目がありましたのでその項目に沿って解説します ○下肢後面のストレッチ  膝関節の伸展テストで膝裏に隙間があった方はもも裏のハムストリングスと下腿後面の腓腹筋の柔軟性が低下しています。それに対する運動療法はハムストリングス(図5)と腓腹筋(図6)のストレッチを行い、柔軟性を改善することで膝関節伸展の可動域が改善され、歩行時に膝関節を伸展しやすくなります。 図5 図6 ○立ち上がりテスト  立ち上がりテストで40cmの台から両足で立ち上がれなかった方は立ち上がる能力の低下やバランス能力の低下しているため、歩行時に膝関節に負担がかかってきます。原因としてはもも前やお尻の筋力が低下しています。それに対する運動療法を紹介させていただきます。 ①タオルつぶし(図7):もも前の内側の筋力を強化します。  もも前の筋肉は立位姿勢や歩行時の膝を伸ばす際に重要な筋肉になります。 図7   ②チェアスクワット(図8)、③片脚立ち(図9)ではもも前とお尻の筋肉を強化します。椅子からの立ち上がりや階段などで使う筋肉や歩行時のバランス能力を向上させるのに重要な筋力になります。 図8 図9   3.運動療法の効果について  患者さんに合わせてトレーニング指導を中心とした体操教室を船橋整形外科西船クリニックで行ないました。変形性膝関節症と診断された患者さんを対象に疼痛3項目、身体機能評価6項目のアンケート調査を行い、教室参加なし群と教室参加群の比較を行いました。結果は体操教室に参加された患者さんで疼痛、日常生活動作に関係する項目で改善が見られました。詳細は以下に報告させていただきます。 ○膝関節の痛みについて  歩行時、階段昇降、荷重時の痛みでは教室に参加しなかった患者さんより教室に3ヵ月参加した患者さんの方が、痛みが改善したという結果でした。(図10) 図10 ○日常生活動作について  日常生活動作(歩行、階段昇降、立ち上がり動作、買い物、車の乗り降り)が大変かという質問に対して、ホームエクササイズを行なっている患者さんでも改善が見られましたが体操教室に参加された患者さんに大きな改善が見られました。(図11) 図11 4.まとめ  膝関節の痛みを止めるために、ストレッチやトレーニングをおこない、筋力と柔軟性を獲得することが大切です。適切な運動を実施し、痛みをださない・再発させないことが必要です。  当院では膝の状態を医師が判断したあと、各自に合った運動を療法士が作成し指導しています。膝の痛みで困っている場合は一度診察にいらしてください。   執筆:西船理学診療部 藤原教弘 監修医師:二宮太志

2023.05.26

ふなせいコラム:膝

 

変形性膝関節症の保存療法① ~なぜ膝に痛みが出るのか?~

はじめに  膝に痛みのある患者様に向けて、膝関節に痛みが発生しやすい人の特徴について解説したいと思います。   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1.なぜ膝の痛みが出てしまうのでしょうか? 2.変形性膝関節症について  ・変形性膝関節症の症状  ・なぜこのような症状が出るのか  ・歩行動作の特徴 3.まとめ   1.なぜ膝の痛みが出てしまうのでしょうか?  主に痛みの原因と言われているのは、加齢・体重増加・筋力低下です。このような原因により、関節のクッションである半月板の損傷や軟骨がすり減ってしまい、関節の隙間が狭くなってしまうことで痛みが生じるようになります。この痛みが変形性膝関節症の原因となってきます。   2.変形性膝関節症について ○変形性膝関節症の症状  変形性膝関節症は50歳以上の女性に多く、特に肥満の方がなりやすいと言われています。 症状としては、①疼痛、②腫脹、③関節の変形、④膝関節の可動域制限があります。 ※詳しくは2022.02.19の「膝の痛みがある方へ 。それ、もしかしたら変形性膝関節症かもしれません。」に記載されています。   ○なぜこのような症状が出るのか  人は両足で体重を支えながら歩いています。歩行時では約2倍もの体重が膝関節にかかると言われています。例えば:40kgの人は80kg、60kgの人は120kgのストレスが膝関節にかかります(図1)。なので、単純に体重を減らすだけでも膝への負担は減らすことができます。 図1  しかし、体重を減らすのはなかなか大変だと思います。そこで膝関節への負担を減らす鍵となるのは筋肉量になります。同じ体重の人でも筋肉量が多い人と脂肪量が多い人では膝関節にかかる負担が違ってきます。筋肉量の多い人では筋肉で身体を支えることができるため、動作を行う際に衝撃吸収やふらつきを制御でき、脂肪量が多い人では身体を支える力が少なく、動作の制御や衝撃吸収ができず軟骨や半月板にストレスがかかり痛みが出やすくなってしまいます。(図2)   図2  筋肉量と膝痛の関係について解説します。(図3)下半身の筋肉量が多いと平地歩行や階段、立ち上がり動作などでバランスをとり、身体を支えることで膝関節へのストレスを少なくすることができます。筋肉量が少ないと身体を支えることができず、バランス能力が低下してしまうため膝関節へのストレスが多くかかってしまいます。体重増加や筋力低下により膝関節にストレスがかかり軟骨が擦り減り、関節の隙間が狭くなることで痛みが出てきてしまいます。   図3 ○歩行動作の特徴  歩行には踵を着く、身体を支える際に膝が伸び切る瞬間があります。(図4) しかし、その時期に膝がしっかりと伸びていないと膝へのストレスが大きくなり痛みが出やすくなります。(図5)   図4:正常な歩行   図5:膝が曲がっている歩行   3.まとめ  膝に痛みがでた当初は安静が必要ですが、過度に安静にしすぎてしまうと、筋力低下や、関節の動きづらさが出現します。その状態で日常生活を送るとより膝に負担がかかり、さらに痛みが悪化するという悪循環が起こります。膝の痛みで困っている場合は一度診察にいらしてください。   執筆:西船理学診療部 藤原教弘 監修医師:二宮太志

2022.03.29

ふなせいコラム:肘

 

ふなせいの医師が解説 野球肘の症状と治療法

船橋整形外科病院では野球肘に対して年間約150件の手術加療を行っています。年齢は小学生から社会人まで様々で、競技レベルもアマチュア選手からプロ野球選手まで幅広く来院されています。今回はその経験をもとに、野球肘についての説明と解説を行っていきたいと思います。   このコラムの内容 野球肘とは? 野球肘の原因 野球肘の症状 野球肘の分類 野球肘の治療 野球肘の予防 自宅でできる簡単な野球肘のチェック方法 野球肘のテーピング方法 自宅でできる肘周りのストレッチの紹介 野球肘について患者様からよくある質問   野球肘とは? 野球肘とは、ボールを投げる動作によって肘が痛くなる肘の障害の総称です。野球肘は野球やソフトボール、やり投げなどの物を投げる動作だけでなく、テニスのようなラケットを振る動作で肘に強い力がかかるスポーツでも生じます。野球肘は子供だけでなく大人にも発症し、痛みのでた時期によって以下の2つに分けられます。 (1)少年期野球肘: 骨端線(成長線)閉鎖前の成長途上の骨端線や骨軟骨の障害 (2)成人期野球肘: 骨端線閉鎖後の骨、関節、靭帯の障害   野球肘の原因 野球肘は繰り返しボールを投げたり、ラケットをふることで肘に強い力がかかり、骨(骨端線)、軟骨、靭帯、筋肉に負担がかかり発症します。特に投げすぎによる野球肘が最もよく知られていますが、「肘下がり」「手投げ」「体の開きが早い」「全身の柔軟性の低下」などの不適切な投球フォームや、速い球を投げる、遠くに球を投げるなど、たった1球でも肘に大きな負担がかかると野球肘が発症することが知られています。最近ではボールの種類や大きさ、球種なども野球肘の原因になることがわかってきています。   野球肘が原因で肘が痛くなるメカニズム 肘には上腕骨(肩側)、橈骨・尺骨(手首側)の3つの骨があります(図1)。ボールを投げるときには以下のそれぞれの部位に強い力が加わり、少年期には成長軟骨や骨端線、成人期には骨や関節、靭帯に負担がかかります。肘の内側(小指側)には骨をつなぐ靭帯やボールをにぎったり押し出す筋肉がついています。したがってボールを投げるときには、内側には関節が離れようとする力(牽引力)が加わります。外側(親指側)では骨と骨(関節)がぶつかる力(圧迫力)が加わります。後ろ側(後方)では関節がぶつかる力(圧迫力)が加わります。(下の図)   野球肘の症状 野球肘の主な症状は、ボールを投げる時や投げた後に肘が痛くなることです。1球で痛みが出て投げられなくなるものや、徐々に痛みが出て痛みが慢性化するものがあります。多くは日常動作で痛みを感じることはありませんが、症状がひどくなると日常生活での肘の曲げ伸ばしで痛みを感じたり、肘が急に動かせなくなることもあります。また、頻度は低いですが、手の小指側(尺側)にしびれや力の入りにくさが起こることもあります。その結果、全力でボールを投げられなくなったり、遠くまでボールを投げられなくなることもあります。   野球肘の分類 野球肘は肘の痛む部位から内側型、外側型、後方型、その他の4つに分けられます。   代表的な疾患 内側型野球肘 少年期:内側上顆障害 内側上顆裂離損傷(剥離骨折)、 内側上顆骨端線閉鎖不全(骨端線離開) 成人期:内側側副靭帯損傷、尺骨神経障害 外側型野球肘 少年期:肘離断性骨軟骨炎 成人期:滑膜ひだ障害 後方型野球肘 少年期:肘頭骨端線閉鎖不全 成人期:肘頭疲労骨折、後方インピンジメント症候群 その他 少年期:関節内遊離体(関節ねずみ) 成人期:関節内遊離体(関節ねずみ)、変形性肘関節症   1. 内側型野球肘 投球動作では、加速期に腕が前方に振り出される際に、肘に強い負荷(外反ストレス)が肘の内側の骨の出っ張り(内側上顆)に加わります(下の図)。さらに、その後のボールリリースからフォロースルー期でも手首が背屈(手の甲側に曲がること)から掌屈(手のひら側に曲がること)、前腕は回内(内側に捻ること)、指は屈曲(指が曲がること)に素早く曲がるため、肘の内側に強い負荷が加わります。この動作の繰り返しにより、年齢によって構造的に最も弱い部分に負荷がかかり損傷が起こります。 内側上顆障害 肘の内側の骨の出っ張り部分(内側上顆)にある成長軟骨が障害されます。徐々に肘の痛みが出て、初めのうちは投球後数時間で痛みはおさまりますが、そのまま投球を続けていると痛みがおさまりにくくなります。   内側上顆裂離損傷(剥離骨折) 内側上顆障害とよく似ていますが、これはある1球を投げた時から急に痛みが出ます。肘の内側の出っ張り部分(内側上顆)の成長軟骨や骨が割れたもの(裂離といいます)で、痛みが強いことが多いため2-4週間程度の安静、場合によっては肘の固定が必要なことがあります。   内側上顆骨端線閉鎖不全(骨端線離開) 中学生頃に肘の内側の出っ張り部分(内側上顆)の成長軟骨と上腕骨の間は成長とともに癒合します。しかし、強い負荷が繰り返しかかると癒合せずに痛みの原因となることがあります。またある1球を投げた時から急に痛みが出ることもあります。投球時に内側の筋肉に引っ張られて肘の内側の出っ張り部分(内側上顆)の成長軟骨が上腕骨からはがれた状態です。ずれが大きい場合は手術が必要になることがあります。   内側側副靭帯損傷 通常骨端線が閉鎖した高校生以上で起こります。前述の投球動作の繰り返しにより、肘の外反を制御する内側側副靭帯が障害され発症します。スキーの転倒のような1回の外力で靱帯が完全に断裂する場合と異なり、野球肘では繰り返す牽引により、内側側副靱帯が部分的に損傷したり変性します。   尺骨神経障害 長年野球をすることにより肘に変形が起こり、この変形によって内側の神経(尺骨神経)が圧迫されたり、肘周辺の発達した筋肉が神経を圧迫したりして小指や薬指にしびれが出ることがあります。投げているうちにしびれが出て投げられなくなることもあります。投球の休止、腕の筋肉のストレッチ、フォームや体の硬さなどの問題を改善します。こうした治療で改善しない場合には手術が必要となることがあります。   2. 外側型野球肘 投球動作の加速期における外反ストレスによって、腕橈関節と呼ばれる肘関節の外側(下の図)に圧迫力が働き、さらにフォロースルー期で関節面に捻りの力も働きます。このストレスの繰り返しにより生じるのが外側型野球肘です。 肘離断性骨軟骨炎 10歳前後で発症することが多く、野球肘で最も重症になる障害の1つです。発症してすぐは、痛みや動きの制限などはありませんが、じょじょに運動時痛(曲げ伸ばしによる痛み)や可動域制限(曲げ伸ばしの制限)が起こる場合があります。ひどくなると病巣部の軟骨片が遊離して関節内遊離体(関節ねずみとも呼ばれます)になり、引っ掛かり感や肘が動かなくなるロッキング(関節ねずみが関節の中に挟まり、肘がある角度で動かなくなること)をきたすこともあります。   滑膜ひだ障害 投球で肘を伸ばしたとき(フォロースルー)に肘の後外側にある膜が骨に挟まって痛みを出します。   3. 後方型野球肘 ボールを投げるとき、フォロースルーでは肘が伸びますがこの時に肘の後方に衝突するようなストレスを受けます。この動作の繰り返しにより骨端線、骨、骨軟骨が痛みます。   肘頭骨端線閉鎖不全 骨端線が閉鎖する前の小学生から中学生で起こります。フォロースルーで肘が伸びる際に肘の後ろで骨同士の衝突が起こり、骨端線が開くような力が働きます。これにより骨端線の癒合が遅れたり、骨端線部分で骨が離れてしまい、骨折のようになることがあります。   肘頭疲労骨折 骨端線が閉鎖した中学生から高校生以降で起こります。フォロースルーで肘の後ろで骨同士の衝突が起こり、これを繰り返すことで疲労骨折が起こります。   後方インピジメント症候群 投球を繰り返すことで少しずつ骨に棘(とげ)のような余分な骨ができてくることがあります。これを骨棘(こつきょく)といいます。投球で肘が伸びたときに、肘の後ろで骨同士の衝突が起こり痛みを出します。   4. その他 少年期の肘離断性骨軟骨炎をそのままにしておくと病巣部から軟骨片がはがれる関節内遊離体(関節ねずみ)や骨棘(こつきょく)ができる変形性肘関節症になります。   関節内遊離体(関節ねずみ) 少年期や成人期でも起こります。関節ねずみと言われる軟骨片が関節で引っかかる際の痛みや急な動作制限(肘ロッキング)を起します。   変形性肘関節症 少年期の肘離断性骨軟骨炎を放置して進行してしまうと通常では中高年以降に起こる肘の軟骨がすり減って骨にも変形をきたす状態にもなりえます。また成人期でも投球を続けていくと変形や肘遊離体(関節ねずみ)の原因となります。   野球肘の診断   1.理学所見 医師による圧痛部位の検索が重要です。また肘関節の可動域の確認も行います。そのほか整形外科的テストを行います。(後述の図参照) 2.画像診断 実際にどの部位が損傷を受けているのか確認するために、以下の画像検査を行います。 ①レントゲン検査 骨の異常を確認する際に使用される検査です。一般的には肘関節2方向(正面像、側面像)が撮影されますが、野球肘の場合は45°屈曲位正面像を追加して撮影しています。また両肘のレントゲン撮影をして左右の比較を行います。 内側型野球肘では肘内側にある骨(内側上顆)の骨の不整や肥大、骨端線の離開、裂離骨折が確認できます。 外側型野球肘では肘外側にある骨(上腕骨小頭)の変形や欠損、遊離した骨片が確認できます。病巣部の進行状況に応じて透亮期分離期遊離期に分けられます(下の図)。   後方型野球肘では尺骨肘頭部の骨端線の離開や疲労骨折が確認できます。 その他の変形性関節症や関節内遊離体(関節ねずみ)が確認できます。 ②超音波エコー検査 筋、腱、靭帯、軟骨の異常を確認する際に使用される体への負担がない検査です。 内側型野球肘では内側の裂離骨片や靭帯損傷の有無、関節の緩みなどが確認できます。 外側型野球肘では肘外側にある骨(上腕骨小頭)の軟骨の状態が確認できます。特に肘離断性骨軟骨炎肘離断性骨軟骨炎の初期ではレントゲン検査では見つからないこともあるため有効な検査法です。最近は全国各地でこの超音波エコーを用いた野球検診が行われるようになりました。これは肘離断性骨軟骨炎肘離断性骨軟骨炎を早期に発見し、重症になる前に治療を行うために行われています。 ③CT検査 骨の異常を詳細に確認する検査です。レントゲンに比べて細かい情報を得ることが可能です。特にレントゲン検査で分からない関節内遊離体(関節ねずみ)や変形の程度がわかります。 ④MRI検査 筋、腱、靭帯、骨、軟骨の異常を詳細に確認する検査です。超音波に比べて細かい情報を得ることが可能です。   野球肘の治療   野球肘の治療法は個々の患者さんで異なります。ポジションやチームの練習状況、野球(投球)の継続を希望するか否か、また今後どの程度の競技レベルを目指すのかなど、患者さんやご家族と十分に話し合った上で治療方針を決定すべきと考えています。当院では肘自体の圧痛、可動域制限がある場合は一定期間の投球禁止による安静を行ってもらいます。同時に、肘以外の症状に合わせて下半身や体幹、肩まわりなど全身の柔軟性や筋力の改善・強化を行ないながら、段階的に肘周りの筋力強化、投球動作のチェックなどを行っていきます。野球肘は、基本的には肘の使い過ぎや過剰な負荷によるところが大きいため、肘自体の症状が改善するまでは練習日数や時間、投球数の制限、ポジションの変更などが必要になってきます。また、投球フォームにより肘に負担がかかりすぎることもありますので投球フォーム指導を行い段階的に投球開始しています。腕立て伏せや跳び箱、ドッジボールなど、肘関節に大きな負荷のかかることは禁止します。ただし肘にあまり負担のかからないランニングやバント練習、守備練習(ノックで捕球動作~送球の構えまで)バッティングなどの肘に直接負担がかからない運動は許可しています。以下野球肘の部位別の治療法について説明します。   1. 内側型野球肘 骨端線閉鎖前の内側上顆障害、内側上顆裂離損傷(剥離骨折)、内側上顆骨端線閉鎖不全(骨端線離開)では保存加療が行われます。徐々に痛んでくる場合は、痛みや可動域制限が軽度であれば、数週間〜数ヶ月の投球中止によって肘の痛みが軽快することが多いです。投球中止のあいだは、保存療法として運動やストレッチなどのリハビリを行います。1球で急に痛みが出た場合や痛みが強い場合は固定具を用いて肘を安静に保ちます。その間投球を中止し、フォームや体の硬さなどに問題があればこれを改善します。また1球の投球によって急な痛みが出て損傷や離開の程度がひどい場合は手術が選択されることもあります。 骨端線閉鎖後の内側側副靭帯損傷も原則保存療法が行われます。靭帯周りのうちがわの筋肉(回内屈筋群)は靭帯と連続し、外反ストレスから靭帯を守る役割があります。したがってそれらの筋を強化するリハビリ治療を行います。 最近では体外衝撃波治療(ESWT)や多血小板血漿(PRP)治療という再生医療なども行っています。   解説: 体外衝撃波治療(ESWT)とは、体外から疼痛部位に衝撃波を当てることで疼痛を改善させ組織修復を促す治療法です。また、多血小板血漿(Platelet Rich Plasma: PRP)を用いた治療の導入も行っています。PRPは自身の血液から組織を修復する因子を採取し、損傷した組織に投与する治療です。有効性を示す報告はありますが、現在の国内においては両治療とも保険適用外になります。詳細についてはみらいクリニックのホームページよりお問い合わせください。   一定期間(3から6か月)の保存療法を行ってもパフォーマンス低下や痛みが残り、高いレベルでの競技復帰を希望する場合にはトミージョン手術と呼ばれる靭帯再建術を行います。手首のすじ(腱)を肘に移植して靭帯を再建します(下の図)。復帰には1年から1年半ほどかかるので、ハイレベルの競技活動の継続を希望する選手や不安定性(機能不全)により肘の内側を走行する尺骨神経に障害を来すケース、強い痛み・不安定感により日常生活に支障を来すケースなど限られた患者さんのみに行っています。   2.外側型野球肘 骨端線閉鎖前の初期例(透亮期や分離期の一部)や、病巣部が大きくない場合は投球禁止、肘の安静による保存療法を行い病巣の修復、治癒をまちます。しかしその場合6か月から1年間、場合によっては1年以上の長期にわたり投球動作を禁止することが一般的におこなわれている治療法です。当院では投球禁止をなるべく短くするためにリハビリテーションを行い、肘周りの痛みや可動域、投球フォームの改善が確認できれば、病巣の修復を待たず投球を再開しています。野球を継続しながら外来通院もあわせて行い、病巣部を定期的に観察します。一方で痛みを我慢して投球を続けていると障害が悪化し、場合によっては手術が必要になることもあります。手術加療の適応は保存加療でもよくならない、進行例(分離期後期・遊離期)、病巣が大きく保存療法での治癒はほとんど期待できない例に対して行います。とくに肘の曲げ伸ばしの制限が強い、肘がロックして動かせない(肘ロッキング)、日常生活動作に支障がある場合などは、早めの手術を勧める場合もあります。骨の成長の度合い、病変の進行具合、病変の大きさなどにより手術方法が変わります。当院で行われている具体的な手術方法としては、以下が挙げられます。   ①骨軟骨柱移植術、モザイク形成術:進行例で関節面に大きな欠損が生じてしまったケースでは、骨軟骨を移植して関節を形成することが必要になります。 この手術では、一般に、骨軟骨片を(1)自分の膝関節の一部から移植する方法と(2)肋軟骨から移植する方法があります。当院では膝(肋軟骨)から採取した骨軟骨を移植し、肘を切開して関節表面の軟骨を形成する方法を当院では行っています(下の図)。 ②関節鏡視下病巣そうは術:軟骨がはがれている場合、病変が小さければ関節鏡を用いてはがれた、あるいは、はがれかけている軟骨を摘出します(関節鏡についての詳しい説明はこちら。)   3. 後方型野球肘 肘頭骨端線閉鎖不全や肘頭疲労骨折は保存加療が第一選択です。リハビリテーションによる投球動作の改善を行ったり、体外衝撃波を行って肘自体の痛みの軽減や骨癒合を目指す場合もあります。病巣部の改善がなく投球時痛が持続する場合は手術加療を行います。手術療法には観血的固定術や骨釘術などがあります。 後方インピジメント症候群では肘頭、肘頭窩での骨棘(こつきょく)形成、あるいは骨棘骨折による遊離体などを認め、リハビリテーションによる保存療法行っても動作時痛や可動域制限、競技力の低下をきたしている場合手術療法を行います。手術は関節鏡視下に骨棘(骨の出っ張り)を切除したり、遊離体を摘出することなどで関節の動きを改善・痛みの軽減を図ります。   4.その他 関節内遊離体(関節ねずみ)や変形性肘関節症は保存加療が第一選択です。関節内注射による炎症の軽減を行うこともあります。可動域制限や投球時痛が持続する場合は手術加療を行います。手術には関節鏡視下遊離体切除、関節形成術を行います。   野球肘の予防 一般的なものからそれぞれの部位別野球肘の予防法について 野球肘を予防するためには、肘にかかる負担を軽減することが大切です。ボールを投げる動作は全身を使います。下半身から生み出された力が上半身へと伝達され、最終的に手や腕でボールに力を伝えます。下半身や体幹の動きが悪いと肩や肘や手が必要以上に大きく動かされる、いわゆる手投げの状態となり、野球肘の危険性が高まります。 肘内側障害は、投球動作中の腕が一番しなる時に痛みが出やすいとされています(写真1)。肘を外側に引っ張る力が急激に加わり、内側の靭帯や筋肉が強く引き伸ばされることで障害につながります。予防するためには、肘の内側につく筋肉の柔軟性と筋力を高めることに加え、上半身から下半身まで柔軟に動く必要があります。猫背の人は肩甲骨や背骨の動きが悪くなり野球肘になりやすいとの報告もあるため、姿勢の改善も大切です。 肘外側障害は投球動作中の腕がしなる時やリリース直後に痛みが出やすいとされています(写真1、2)。肘が外側に引っ張られた時、外側の関節に圧迫やずれる力が加わることで障害へとつながります。特に手首を内側にひねった時には外側の関節への圧が高まるとされており、予防のためには手首をひねる動きが柔軟であることが大切です。 肘後方障害はリリース時に痛みが出やすいとされています(写真2)。リリース時は肘を外側に引っ張る力に加えて、肘を伸ばす力が強く働き、肘の後方で骨が衝突することで痛みを生じやすいとされています。予防のためには、肘の曲げ伸ばしの動きを柔軟に保つことや肘を伸ばす筋肉の働きを高めることが大切です。また、リリースがダーツを投げる動作のように肘から先だけを動かす投げ方になると痛めやすいため、全身を柔軟に使って投げることも大切です。   自宅で出来る簡単な野球肘のチェック方法 圧痛 内側で圧痛をチェックする部位(右肘) 写真3-赤 上腕骨内側上顆(リトルリーグ肘) 肘の内側で最も突出した部位 写真3-青 屈筋群起始部周辺(内側上顆炎) 肘の内側で最も突出した部位よりも手首側 写真3-黄 内側側副靭帯(内側側副靭帯損傷)肘の内側で最も突出した部位の前面で手首よりの部分 外側の圧痛をチェックする部位(右肘) 写真4 上腕骨外側部(肘離断性骨軟骨炎) 肘を最大まで曲げて正面で最も突出した部位の外側部分 後方の圧痛をチェックする部位(右肘) 写真5-赤 肘頭(肘頭骨端炎) 肘を軽く曲げ肘後方で最も突出した部位  写真5-青 肘頭窩(肘頭骨端炎) 肘頭のすぐ肩側の凹んでいる部分 関節可動域チェックの方法 写真6 肘伸展:胸の前で肘を伸展させる。左右差がないかを確認する。合わせて肘関節の外反(外に曲がる)についても左右差がないかチェックする。 写真7 肘屈曲:肘を体側部につけた状態で、指が肩に触れることができるかチェックする。   写真8 手関節背屈:左右を比較しながら、背屈制限やストレッチ痛の有無をチェックする。 写真9 手関節掌屈:左右を比較しながら、掌屈制限やストレッチ痛の有無をチェックする。 写真10 前腕回外:肘を体側部につけた状態でペンを握って内側に捻り、床と平行になるかチェックする。 写真11 前腕回内:肘を体側部に付けた状態でペンを握って外側に捻り、床と平行になるかチェックする。 肘関節以外のチェック(肩周り、体幹の動き) 写真12 肩の外旋(外ひねり):うつぶせになって肘をつき、腕を外側にひねる。 ※左右で差がないかを確認する。 写真13 肩の挙上と肩甲骨の動き:うつぶせで片手を額に置き、もう片方の手をあげる。 ※腕の付け根からあがっているかを確認する。左右で差がないかを確認する。 写真14 上半身のひねり:四つ這いで手を頭の後ろに置いて、天井をのぞくように上半身をひねる。 ※下半身が動かないように注意する。左右で差がないかを確認する。 自宅でできる肘周りのストレッチ 写真15 前腕から指にかけてのストレッチ:手の平を上に向けた状態で肘を軽く曲げ、人差し指と中指に反対の手を引っ掛けて肘を伸ばしていく。赤い部分に伸び感があると良い。 写真16 前腕内側のストレッチ:手の平を上に向けた状態で肘を軽く曲げ、薬指と小指に反対の手を引っ掛けて肘を伸ばしていく。赤い部分に伸び感があると良い。 写真17 前腕外側のストレッチ:手の甲を上に向けた状態で肘を軽く曲げ、手首を下に倒して肘を伸ばしていく。赤い部分に伸び感があると良い。 野球肘のテーピング方法 写真18  肘の痛みが強い時のテーピング:矢印の方向に巻く。肘が吊られているような感覚を自覚できると良い。 写真19 投球時に肘内側や外側に痛みがある時のテーピング:最初に赤矢印の方向にテープを巻き、その後黄色矢印(テープの始まりと終わり)を一周するように巻く。   投球数や練習時間、日数について   全力投球数は、小学生では1日50球以内、試合を含めて週200球以内、中学生では1日70球以内、週350球以内、高校生では1日100球以内、週500球以内が目安です。これ以上投げると肘関節障害のリスクが高まると言われています。 練習日数と練習時間は、小学生では、週3日以内、1日2時間以内、中学生・高校生においては、週1日以上の休養日をとることが推奨されています。個々の選手の成長、体力と技術に応じた練習量と内容が望ましいです。 以上で野球肘についての解説を終わらせていただきます。最後に患者さまから良く質問される内容をQ&A形式でまとめました。   Q.野球肘の予防のためにサポーターやテーピング、マッサージは有効ですか? A.サポーターやテーピングは、外反方向へかかる牽引力を軽減したり、痛みを軽減する効果があります。テーピング方法によっては、投げにくくなったり、肘関節以外への負担を大きくしてしまう場合があり、正しい方法で行うことが大切です。 マッサージは、硬くなった筋肉をほぐす効果があり、コンディショニングとしては有効です。 Q.野球肘を予防するために必要なストレッチやトレーニングはありますか? A.練習前後のストレッチは、すべての障害を予防する意味でとても大切です。肩や肘のストレッチングは必ず行いましょう。また、ピッチングは全身運動なので、股関節や体幹の柔軟性も必要です。肘関節に限れば、前腕屈筋群、伸筋群のストレッチングがポイントになります。 Q.野球肘は子供だけがなる病気ですか? A.野球肘は子供だけでなく大人にも起こり、痛みのでた時期に応じて少年期野球肘と成人期野球肘の2つに分けられます。 Q.野球肘にアイシングは有効ですか? A.ピッチング後のアイシングも有効です。ただし、痛みを感じたり、投球数が多くなったりしても、アイシングをすれば大丈夫ということではありません。 Q.野球肘を自分で治すことは可能ですか? A.安静やアイシングなどで痛みの軽減を図ることは可能ですが、根本的な原因解決には至らない可能性もあります。 Q.野球のピッチャーをやっています.野球肘にならない投げ方はありますか? A.絶対に野球肘にならない投げ方はありません。どんなにきれいな投げ方でも投球数が多ければ肘を痛めるリスクが高まります。また、ポジションや体格などでも野球肘のリスクは変わります。 Q.肘関節鏡とはあまり聞きませんが船橋整形グループではどのくらいの実績がありますか A.野球肘に対しての肘関節鏡は年間150件程度行っています。 Q.野球肘の手術の費用と入院期間を教えて下さい. A. 野球肘の手術で最も多い肘関節鏡の手術費用は約13万円です。肘離断性骨軟骨炎で更に骨軟骨移植が必要な場合は約5万円が加算されます。成人期内側型野球肘に対する肘靭帯再建術の手術費用は約15万円です。いずれも入院期間は4日間です。手術費用以外に、食事代やリネン代など入院に必要な費用も発生します。また中学生以下の患者さんの医療費は、お住いの市区町村によって患者さんの一部負担金が異なりますので、詳しくは病院係までお尋ねください。   当院医師のYoutubeチャンネルです。是非ご覧ください。 ほっしゃん先生の肩肘ラボ 執筆者 医師:星加昭太 理学療法士:山野拓也 永田拓也

2022.02.19

ふなせいコラム:膝

 

膝の痛みがある方へ 。それ、もしかしたら変形性膝関節症かもしれません。

初めに 今回は船橋整形外科病院 人工関節センター医師より、膝に痛みのある患者さまに向けてその治療方法などについて解説させて頂きたいと思います。   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。 膝の痛みをセルフチェックしてみましょう。 まずはじめに、膝の痛みのセルフチェック方法について説明させていただきたいと思います。以下の項目を読んでいただいて、何個当てはまるかチェックしてみましょう。 膝の痛みのセルフチェック表 □立ち上がり動作や歩きはじめに膝が痛い。 □30分以上歩くと膝が痛くなる。 □階段の上り下りをすると膝が痛い。 □正座やしゃがみ込みができない。 □胡座(あぐら)が辛い。 □膝が腫れる(水が溜まって腫れる)。 □膝を動かすと変な音がする(骨が擦れてギシギシ音がする)。 □膝の怪我の既往歴(通院歴)がある。   いかがでしょうか? これらの項目が複数該当する方は「変形性膝関節症」と言われる病気かもしれません! そのまま放置しておくと、膝の痛みが増強し歩くことが困難になり日常生活に支障を来す可能性があります。一度整形外科を受診することをおすすめいたします。   次に変形性膝関節症の原因と膝の痛みの関係について解説させていただきたいと思います。   変形性膝関節症の原因と膝の痛みの関係について 膝関節では、骨と骨が接している部分に、様々な軟骨(関節軟骨や半月板など)が存在します。これらの軟骨は、衝撃を吸収したり体重を分散し、膝の動きをスムーズにする役割があります。 加齢や肥満(太っている)、重労働や激しいスポーツ、これまでの生活環境など様々な原因が重なり、軟骨が擦り減ってしまい骨と骨が直接当たってしまい膝の痛みが生じます。これが変形性膝関節症の膝の痛みが発生する原因です。   変形性膝関節症を治療しないとどうなるの? 変形性膝関節症を治療せず放置しておくと、歩くことが困難になったり正座やしゃがみ込み動作が困難になり、日常生活に支障が生じて生活の質が損なわれます。 さらに変形性膝関節症は治療をしないと悪循環に陥ります。 膝が痛い→動かなくなる→筋力が低下&体重が増加→変形性膝関節症の悪化→膝が痛い→… といった状態に陥り悪化していきます。傷んだ膝の軟骨は、自力での治療は困難です。できるだけ早期に治療を開始することをおすすめいたします。   変形性膝関節症の治療方法について解説 まず、膝の痛みが本当に変形性膝関節症によって生じたものなのかレントゲン撮影を行い確認します。そしてレントゲン画像をもとに変形性膝関節症の進行具合を確認し、治療方法を検討します。 変形性膝関節症の治療方法は大きく分けて「手術を行わない保存療法」と「手術療法」の2つがあります。 更に近年では、その2つに加えて自費(保険適応外)で行う再生医療と言われる治療も行われるようになってきています。 次の項目では変形性膝関節症の「手術を行わない保存療法」と「手術療法」について説明させていただきたいと思います。 再生医療について詳しく知りたい方は船橋整形外科グループ「みらいクリニック」のホームページをご参照ください。   変形性膝関節症の保存療法 変形性膝関節症と診断したら「いきなり手術」というわけではなく、まずは手術を行わない保存療法を行っていきます。 変形性膝関節症の保存療法は主に以下の4つです。これらを変形性膝関節症早期から行うことにより進行を遅らせ膝の痛みを軽減することができます。   1.薬物療法 消炎鎮痛剤(内服薬や外用薬) ステロイド注射 ヒアルロン酸注射 などです。 消炎鎮痛剤やヒアルロン酸などの薬剤を投与することにより、膝関節内の痛みの原因となる炎症をおさえ、膝の痛みを緩和させます。副作用として内服薬による消化管障害、 腎/肝機能障害、 心血管障害、 精神症状などありますので必ず医師の指導のもと適切に内服をしてください。 また、外用薬による皮膚トラブル、非常に稀ですが関節内注射時に細菌が入り感染を起こす可能性があります。   2.装具療法 足底板 サポーター 杖 などです。 目的は、膝関節の異常運動や不安定性の改善と足の向き(O脚など)を修正して膝の痛みを緩和することです。 装具療法の問題点は、装具が合わなければ皮膚トラブル を起こす可能性があることや長期使用による筋萎縮、関節への影響などがあげられます。ポイントとしては患者さんに合った装具選択・装着期間が重要です。当院でも対応できますのでご相談ください。   3.運動療法 ストレッチ 可動域訓練 筋力訓練(スクワット、足持ち上げ訓練、太ももの筋力訓練、足開き訓練など) 水中運動(プール) などです。 当院で最も力を入れている分野です。 運動療法は非常に重要です。膝周囲の筋肉が強くなると、膝の動きが安定し、膝にかかる衝撃や負担を減らし痛みの軽減につながります。また関節液の循環が改善し、軟骨への栄養供給が改善し、軟骨の質を良好に維持する効果があります。   4.温熱療法 電気・超音波器具 などです。 目的は温める事によって血液の循環を促し膝の痛みを軽減させることです。   変形性膝関節症の手術療法 保存療法でも膝の痛みが良くならず、症状が進行してしまった場合は手術療法を検討します。 変形性膝関節症に対する手術は、重症度や症状の進行具合によって主に4種類あります。その手術の適応と方法を解説したいと思います。   1.関節鏡視下手術 初期の変形性膝関節症にのみ適応となる手術です。 膝の関節に数箇所(大体2から3箇所)の小さい穴を開けてカメラを挿入し、傷んだ半月板や軟骨を取り除いたり修復する方法です。この治療方法は一時的な除痛と変形を遅らせることが主な目的です。 手術療法の中では、入院期間も短く手術後の回復も早いです。当院の関節鏡視下手術の詳細はこちらからご確認ください。   2.高位脛骨骨切り術(HTO) 高位脛骨骨切り術とは、脛骨を骨切りし足全体のO脚変形を矯正する手術法です。正常に近い角度に足を矯正する事により、膝の内側の痛みを取り除くことが可能です。 自分の関節を全て温存しているため、人工関節手術と比べ、スポーツや重労働(農作業や物を持つ仕事など)への復帰に有利です。正座も70%以上の確率で可能と報告されています。 適応は重症でない変形性膝関節症であり、比較的活動性の高い患者さんに適しています。 入院期間は10日間です。手術後約1ヶ月は松葉杖が必要です。順調に経過すれば、手術後3ヶ月頃から運動復帰が可能となります。 3.人工膝関節単顆置換術(UKA) 人工膝関節単顆置換術とは、膝の悪くなっている部分だけ(主に内側)を人工関節に置き換える方法です。膝の半分以上は正常な部分が温存されるため、手術侵襲が比較的小さく、膝の自然な動きが保たれます。特に、高齢者や早期に仕事復帰を希望される場合に有利です。 適応は、高位脛骨骨切り術と同じく重症でない変形性膝関節症です。 入院期間は8〜10日となっています。 4.人工膝関節全置換術(TKA) 人工膝関節全置換術とは、膝の傷んだ軟骨や骨の表面を除去し、金属製の人工関節と軟骨の役割を行うポリエチレンに入れ替える手術法です。感染した膝などを省けば、基本的に重症なものを含め、どのような膝に対しても行えます。 人工膝関節全置換術は、変形性膝関節症に対し最も広く行われている手術です。歩行時の除痛効果に比較的優れていますが、高位脛骨骨切り術や人工膝関節単顆置換術と比べ手術侵襲は大きくなります。また、手術後のリハビリ治療が非常に重要です。   人工膝関節置換術を受けるかどうか悩まれている患者さまからは、不安な声や心配な点が多く聞かれます。 そこで患者さまの不安を軽減するために、当院人工関節センターで手術を受けられた患者さまから多数あった質問について答えていきたいと思います。   患者さまから人工膝関節置換術についてよくある質問 Q:人工膝関節置換術とはどういった手術ですか? A: 膝の傷んだ骨や軟骨の表面だけを削り、金属製の人工関節をかぶせる手術です。 下の写真が当院で行った人工膝関節置換術のレントゲン写真です。白く写っているものが悪くなった骨の換わりになる金属製の人工関節です。またレントゲン写真には写っていませんが白く写っている金属の間に、直接金属と金属がぶつからないように関節軟骨と同じクッションの働きをするポリエチレンが入っています。 Q:人工膝関節置換術を行ったあとに行ってはいけない運動や動作はありますか?また、立ち仕事(畑仕事や農作業も含めて)などできますか? A: 手術前の痛みは軽減し、一人で買い物に行ったり家事をしたりすることが可能です。車の運転も可能で、自転車に乗られている方もいらっしゃいます。 また比較的衝撃の少ない運動(散歩、水泳、ハイキング、ボーリング、ゴルフ、テニスなど)なら可能です。サッカーやバスケットなど、他の選手と衝突したり衝撃の大きな運動に関しては推奨されていないため、主治医との相談が必要です。 正座や膝立て動作に関しては、困難な方が多いです。 畑仕事への復帰も可能ですが、全般的に言えることは、手術後のリハビリ(膝の曲げ伸ばしや筋力の回復)が重要となります。 手術後1〜2ヶ月で軽作業、3ヶ月で重労働が可能となります。   Q:人工膝関節置換術を行ったあと、どのくらいで歩くことが可能ですか? A: 手術翌日から歩く練習を開始します。早すぎると思われる方もいらっしゃるとは思いますが、手術後早期から練習を始める事により、筋力の低下を防ぐことができます。また早期から動くことにより麻酔の合併症(副作用)なども防ぐことができます。 当院での退院時には、基本的にステッキ杖を用いた屋外歩行(およそ300m)、階段昇降などが可能となっています。   Q:金属アレルギーが有るのですが人工膝関節置換術を受けることは可能ですか? A: 金属アレルギーの方でも使用しやすい人工関節も複数ありますので、御相談いただけたらと思います。必要に応じて、専門医へ紹介しアレルギーチェックなども行います。   Q:両足の膝が痛いのですが、両足同時に人工膝関節置換手術を行うことはできますか? A: 両方の膝を同時に人工関節を行うことは可能です。当院での人工膝関節のおよそ3人に1人は両膝同時に行っています。入院期間は数日長くなりますが、十分歩いて退院することが可能です。   Q:人工膝関節置換手術の手術時間はどのくらいですか? A: 当院の平均手術時間は、片足で1時間前後です。両足であっても2時間程で終了します。   Q:人工膝関節置換術の手術費用について教えて下さい。 A: 手術費用についてはこちらをご参照ください。また手術と入院にかかった医療費については自己負担額が払い戻される制度を使用することも可能ですので、お気軽にスタッフまで御相談ください。   Q:人工膝関節置換術の入院期間について教えて下さい。 A: 入院期間は片足の手術で8〜10日、両足で約12日です。 自宅からリハビリ通院を行うことが困難な患者さまは、当院退院後、自宅近くのリハビリ病院へ転院することも可能です。   Q:人工膝関節置換術の入院中の付添などは必要ですか? A: 患者さまのお手伝いは当院のスタッフが対応させていただきますので必要ありません。   Q:人工膝関節置換術の退院後の通院期間はどのくらいですか? A: 手術後3ヶ月間は、週2回程度のリハビリ通院が必要です。それ以降は、患者さまの状態に応じて調整致します。また、当院が遠方でリハビリ通院が困難な患者さまは、自宅近くの整形外科病院へ紹介状を記入することも可能です。 医師による定期的な検診は、手術後3週、1.5ヶ月、3ヶ月、6ヶ月と徐々に伸びていき、手術後1年からは年に1回の検診となります。   Q:人工膝関節置換術後の痛みは強いですか?麻酔はどのように行っていますか? A: 船橋整形外科病院では手術中は経験豊富な麻酔科医の管理のもと、患者さまの術後の痛みを少しでも軽減出来るように、全身麻酔に術後鎮痛のための神経ブロックを併用して麻酔を行っています(当院の麻酔科についての詳細はこちらから)。また神経ブロックの効果がなくなった後は、鎮痛薬の点滴や内服で痛みを軽減させてリハビリを行っています。   Q:人工膝関節置換手術の出血量は多いですか? A: 駆血帯と言われるバンドを用いて血流を断って手術を行うため、手術中の出血量は少ないです。しかし手術終了後は、膝関節内や周囲にある程度出血が生じます。 当院では、手術中に膝関節内に止血剤を注射して出血量を減らす工夫をしています。両側膝を同時に手術を行った場合でも、ほぼ輸血が必要となることはありません。   以上が人工膝関節置換術を受けられる患者さまからよくある質問です。 他にもなにか質問があれば医師、スタッフにお気軽にご質問ください。 以上で今回の「膝の痛みがある方へ 。それもしかしたら変形性膝関節症かもしれません。」のコラムを終了させていただきます。       執筆者 医師:二宮太志 看護師:金子誠      

2021.11.29

ふなせいコラム:手術室

 

全身麻酔を受けられる方へ 手術室からのお知らせ

はじめに 船橋整形外科病院では毎年約5000件の手術を行っています。それらの手術が安全に行えるように、当院では10人の常勤麻酔科専門医と複数の非常勤麻酔科専門医が麻酔を担当しています。今回のコラムでは、一般にあまり知られていない麻酔についてお話していきたいと思います。また、当院での麻酔の特徴についても取り上げていきます。   麻酔科専門医とは? 日本麻酔科学会が行う筆記試験・口頭試験・実技審査に合格し、麻酔関連の臨床研究に関する十分な知識と技量を有することを認定された麻酔科関連業務に専従する医師のことを指します。   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。 本コラムの内容 (1)麻酔とは? (2)全身麻酔のしくみ (3)実際の手術の流れ (4)全身麻酔の合併症(副作用・リスク) (5)船橋整形外科病院麻酔科の特徴 (6)全身麻酔について患者さんからよくある質問 (1)麻酔とは? 麻酔は痛みを感じなくさせ、手術のストレスから患者さんの体を守ることを目的としています。手術中に意識がない全身麻酔と、意識がある局所麻酔の2種類があります。 特に全身麻酔は、呼吸が弱くなるため、人工的に呼吸を補助することが必要になりますので、強い不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。 そこで、全身麻酔のしくみや実際の手術の流れ、麻酔の合併症、また当院麻酔科の特徴をご説明いたします。 最後に、患者さんからよくある質問にお答えします。   (2)全身麻酔のしくみ 全身麻酔は、手術中は完全に眠っている状態なのですが、実は3つの要素から成り立っています。その3要素は、鎮静、鎮痛、筋弛緩で、それぞれを満たすために、下記のような複数の麻酔薬を組み合わせます。   鎮静:意識・手術中の記憶がないことです。 鎮静を目的とする薬剤は、静脈麻酔薬と吸入麻酔薬に分類されます。 静脈麻酔薬は、点滴から注入する薬剤です。主にプロポフォールを使用します。 吸入麻酔薬は、点滴からではなく、口に当てたマスクから眠くなるガスを吸ってもらいます。これを吸うことにより、1~2分程度の間に完全に眠ってしまいます。当院では、セボフルラン、デスフルラン、亜酸化窒素の3種類の吸入麻酔薬を使用しています。 患者さんの既往歴や術式に合わせて、担当麻酔科医が最適な麻酔薬を選択しています。   鎮痛:手術による痛みを感じなくします。 手術中に鎮痛を担う薬剤は麻薬と局所麻酔薬になります。 麻薬と聞くと悪いイメージをお持ちかもしれませんが、全身麻酔に使用する麻薬は医療用に製造されたものです。決して中毒になることはありませんのでご安心ください。 主に、フェンタニルとレミフェンタニルを使用しています。 神経の走行に沿って局所麻酔薬(リドカイン、ロピバカイン)を注入し、その領域の痛みをとる方法が末梢神経ブロックです。末梢神経ブロックのみでも短時間の手術を行うことはできますが、通常は全身麻酔と併用して手術後の痛み止めに利用します。   筋弛緩:手術中に体に力が入ったり、動いたりすることによって手術操作に悪影響が出る可能性があります。そこで、体動がない状態にすることを筋弛緩といいます。 ロクロニウムを投与すると、筋肉を収縮させる伝達物質を阻害し、筋弛緩を得ることができます。また、ロクロニウムに対し、その拮抗薬であるスガマデクスを投与することで、手術終了時に速やかに筋弛緩を戻すことができます。   (3)実際の手術の流れ ここからは、術前の注意点、手術当日の流れをご説明します。 ①手術室入室前 全身麻酔前の患者さんに気をつけていただきたいことがあります。 ・絶食、絶水 胃の中に食べ物や飲み物が入っていると、麻酔時に吐いてしまって、気管の中に入ることがあります。このようなとき、重い肺炎を起こして、命を落とす危険性があります。手術の前は指示された時間までの飲食にし、手術前に誤って食べたり、飲んだりしないように注意してください。なお、指示を守っていただけなかった場合、手術を延期することもございます。   ・ジェルネイルやマニキュア 爪にジェルネイルやマニキュアが塗られている場合、指に装着するパルスオキシメーターで血中酸素飽和度(血液中に含まれている酸素量)を測定することができなくなり、安全に全身麻酔を行うことが難しくなります。手術前には、あらかじめジェルネイルやマニキュアを除去していただくようお願いいたします。   ・コンタクトレンズ コンタクトレンズは、手術中に角膜損傷を起こす可能性があるので、手術室入室前に必ず外してきてください。   ・つけまつ毛・まつげエクステ つけまつげ・まつげエクステもお控えください。全身麻酔中は目の乾燥を防ぐためテープを貼って、まぶたを閉じるようにしています。 その際、つけまつ毛やまつげエクステで目を傷つける可能性があります。   ・外せる歯(入れ歯・ブリッジなど) 外せる歯である、入れ歯やブリッジなどは外してきてください。全身麻酔中は人工呼吸が必要になります。そのために、口から酸素の通り道となるチューブを挿入する(気管挿管といいます)のですが、入れ歯やブリッジが入ったままだとそれが脱落して気道を閉塞する可能性があります。同様に、グラグラする歯や外れやすくなっている歯の被せものも、脱落すると非常に危険ですので、術前に麻酔科医もしくは看護師に必ずお伝えください。   ・髭(ひげ)の剃毛 気管挿管したチューブは、口の周囲にテープを巻いて固定しています。口の周りに髭が伸びていますと、十分な固定を得られず、予期せずチューブが抜けてしまう危険性が高くなります。安全のため、術前には髭の処理(剃毛)をお願いいたします。   ・喫煙 手術が決まったらすぐに禁煙をお願いします。喫煙をしていると手術後に咳や痰が多くなり、肺炎を起こしやすくなることが分かっています。   ②手術室への入室 手術室の入り口で手術室看護師が患者さんの本人確認をします。これは、手術部位の間違い防止や患者取り違え事故防止のため非常に重要ですのでご協力をお願いいたします。 手術室に入り、手術ベッドに移動した後、全身麻酔に必要な装置(モニター)を体につけさせていただきます。   ③全身麻酔の開始 まず、口にマスクを当てて、酸素を吸っていただきます。気持ちをゆったりとさせてゆっくり呼吸をして下さい。意識をなくすためのお薬(静脈麻酔薬)を点滴に入れると、いつのまにか眠ってしまいます。 なお、点滴が難しい場合や、小さなお子様では、マスクから吸入麻酔薬を吸って眠った後に点滴を入れることがあります。 眠っていただいた後は、鎮痛薬、筋弛緩薬を使用し、人工呼吸用のチューブを口から入れさせていただきます。このときの記憶は全くありませんのでご安心ください。 また、手術時間が長い場合や予測出血量などによって、尿道カテーテルを挿入させていただくことがあります。   ④手術中の全身麻酔管理 全身麻酔中は、担当麻酔科医が患者さんの状態と手術の進行状況を見ながら、麻酔の深さや人工呼吸の条件を適切に調節して、最適な麻酔状態を保ちます。 また、麻酔科医は麻酔薬の管理だけではなく患者さんの体がベッドから落ちそうになっていないか、体温が低下していないかなど、随時手術室のスタッフと確認しています。特に、低体温は麻酔の覚醒の質や手術部位感染に影響を与えるので、気をつけています。   ⑤手術終了時 手術が終わりましたら、麻酔薬の投与を中止します。中止して10分程度で麻酔から覚醒してきますが、すると次第に患者さん自身の呼吸が出るようになってきます(自発呼吸)。自発呼吸の出現を確認し、意識が戻ったら気管に入っていたチューブを抜きます。 なお、気管チューブを抜いた後、「手(足)は動きますか?」と声をおかけします。もしそれがお分かりでしたら、手足を動かしていただけますと、覚醒状況が把握しやすいのでご協力をお願いいたします。  また、尿道カテーテルに違和感をもつ方もいらっしゃるかもしれませんが、通常一日程度で抜去できますのでご安心ください(「どうしても尿道カテーテルが嫌です!」という方は、麻酔科医あるいは看護師にご相談下さい。手術によっては尿道カテーテルを全身麻酔中にのみ留置し、覚醒前に抜去できる場合もあります。)。  患者さんの状態(血圧や呼吸など)が安定しているようでしたら、手術ベッドから病棟のベッドに移動し、病室に帰ります。   (4)全身麻酔の合併症(副作用・リスク) ここからは代表的な全身麻酔の合併症について説明させていただきます。 ・歯が欠ける、抜ける 全身麻酔中は人工呼吸を行うために、口からチューブを入れる必要があります。この操作時や麻酔から覚醒するときに歯をくいしばってしまい、 グラグラした歯や義歯が損傷することがあります。   ・喉の痛みやかすれ声 声帯は気管にある膜で、声を出すのに使います。気管にチューブを入れる(気管挿管)ときや、長時間の人工呼吸で声帯に少し傷がつき、手術後数日は喉の痛みやかすれ声が続くことがあります。  まれに、披裂軟骨と言われる喉の軟骨が気管挿管を行うことにより脱臼し、同様の症状が発生することがありますが、こちらは回復までに時間がかかる可能性があります。   ・肺炎(誤嚥性肺炎) 麻酔中や麻酔直後は、胃の内容物が気管内や肺に入り、ひどい肺炎が起きることがあります。 そのため、手術前の絶食・絶飲の指示は必ず守って下さい。   ・悪性高熱症 麻酔薬により筋肉が硬直したり、高熱が生じたりする病気です。 このような遺伝を持っている人は2万人から6万人に1人程度ときわめてまれです。血縁の方に麻酔でこのような異常反応を起こした方がいれば主治医あるいは麻酔科医に必ずお知らせ下さい。   ・アレルギー 麻酔や手術の消毒などで使用する薬が体に合わなくて、蕁麻疹があらわれたり、呼吸困難になったりすることがあります。   合併症は、十分にお話を伺い、検査や診察の結果をふまえて細心の注意を払って麻酔することで予防できると考えております。しかし、麻酔も医療行為である以上、100%安全な麻酔は存在しません。常に100%安全な麻酔を目指し、我々船橋整形外科病院スタッフは日々研鑽し、努力しております。   (5)船橋整形外科病院麻酔科の特徴 当院には10名の麻酔科専門医が常勤しています。そのため、患者さん一人に対して一人の麻酔科専門医が麻酔を担当することができ、麻酔の質が高いと考えています。また、手術中だけでなく、術後鎮痛などにも麻酔科医が積極的に関与しています。これにより、術後早い時期からリハビリを始められ、入院期間の短縮、早期社会復帰につながっています。  また、膝や肩、骨折の手術では全身麻酔に併用して末梢神経ブロックも積極的に施行しております。末梢神経ブロックは、手術をする場所の痛みを伝える神経のまわりに局所麻麻酔薬を投与して鎮痛を得る方法です。末梢神経ブロックを併用して全身麻酔を行うことにより、術中の麻酔薬の使用量を減らすことができるので、薬剤の副作用を軽減できます。また手術中だけではなく手術後も神経ブロックの効果が続きますので、術後数時間から半日は手術による痛みを和らげることが可能です。   (6)全身麻酔について患者さんからよくある質問 Q:前回、全身麻酔を行った際、吐き気が強かったのですがなぜですか? A:全身麻酔のあとで吐き気が続き、実際に吐いてしまうこともあります。女性の方や乗り物酔いしやすい方に多く見られます。過去に全身麻酔後の吐き気で苦しまれた方は、吐き気の出にくい麻酔方法や鎮痛手段もありますので、遠慮なく申し出て下さい。   Q:全身麻酔に危険性はありますか? A:全身麻酔による死亡事故は非常にまれで、一般的には0.0003%(100万例中3例)と報告されています。全身麻酔による危険性は極めて低く、現代において全身麻酔は安全性の高い医療行為の一つであると考えます。   Q:全身麻酔中に目覚めたり、麻酔薬が効かないことはありませんか? A:全身麻酔で使用する薬剤は非常に強力なので、手術中に目覚めてしまうことはまずありません。ほとんどの患者さんは、手術室に入室したくらいまでの記憶しかなく、病室に戻って1時間程度してから記憶がはっきりしてくるようです。 また局所麻酔薬の効きが不十分な場合は、痛くないよう追加しますのでご安心ください。   何か全身麻酔について不安や疑問がありお聞きになりたいことがございましたら、是非、麻酔科医、手術室スタッフにお声かけください。お待ちしております。   執筆者 医師:三村文昭 看護師:金子誠  

2021.09.14

ふなせいコラム:肩

 

肩の脱臼について

今回は肩の脱臼について、船橋整形外科病院で過去に行ってきた肩の脱臼の治療をもとに、原因・症状・手術などについてわかりやすく解説していきたいと思います。 当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   Q:肩の脱臼の原因について教えて下さい? 肩の脱臼とは、腕の骨(専門用語で上腕骨【じょうわんこつ】といいます)が、肩甲骨の受け皿(関節窩)から外れてしまった状態のことで、多くの場合、けがによって起きます(外傷性脱臼といいます)。 肩が脱臼した際に関節窩の周りにある関節唇が損傷します。 これをバンカート損傷(Bankart損傷)と呼びます。このバンカート損傷は自然には修復されず、さらに靭帯が緩んでしまうと脱臼を繰り返します。これを反復性脱臼といいます。 Q:肩の脱臼の症状について教えて下さい? 通常、肩を脱臼した時には痛みを生じ、肉眼的にも肩が変形するといった症状がみられる場合もあります。また、脱臼にともなって腋窩神経などの腕神経叢と呼ばれる神経が一時的に麻痺し、肩や腕に力が入りにくくなることが起こる場合もあります。肩の脱臼を繰り返した反復性肩関節脱臼の場合には、特定の位置で肩が脱臼しそうになるという不安感が生じることがあります。   Q:肩の脱臼をしたとおもったら、どうしたいいですか? 肩の脱臼が自然に治らない場合はただちに病院に行き、脱臼しているかをレントゲンで確認した後、医師により脱臼を整復してもらいましょう。 肩の脱臼が自然に治った場合でもあまり無理に肩を動かさないようにし、安静を保ちながら肩の専門医師のいる病院を受診してください。 とくに肩の脱臼が繰り返し起きている場合には、専門的な治療が必要になりますので肩の専門医師がいる病院を受診する事を強くおすすめいたします。   Q:肩の脱臼の診断方法はどういったものがありますか? 肩のレントゲン写真を撮り、脱臼しているかを確認します。また、骨折を伴っていないかも同時に確認します。 次に肩の脱臼の原因を詳しく調べるためにCTやMRI検査を行います。   CT:主に骨の形態、骨折の有無を確認します。 MRI(関節造影):レントゲンやCTでは見えない靭帯や関節唇の損傷(バンカート損傷)を確認します(注:検査前に生理食塩水を関節内に注射して評価します)   Q:船橋整形外科病院では肩の脱臼の手術はどのように行っていますか? 手術は原則関節鏡視下手術で行っています。手術時間は患者様の症状にもよりますが1時間から2時間で終わります。肩の骨や靭帯の状態が悪い場合は骨移行術(ブリスト―法)を行う場合もあります。 鏡視下手術のメリットは従来の手術法(関節鏡を使用せず直視下に行う方法)と比較すると、傷口が小さいため正常組織を傷つけにくい、痛みが少ない、術後の感染が少ないなどの利点があります。 また、美容的観点からも手術後に残る傷跡は多くの場合小さな痕しか残りません。 当院での方法は鏡視下バンカート修復術と言われる方法で行っています。鏡視下バンカート修復術とは、関節窩の端に糸のついた非金属性のビス(アンカー)を骨に打ち込み、損傷した関節唇とゆるんだ靱帯に糸を用いて靭帯に緊張をかけ修復をします。   ポイント:当院での鏡視下バンカート修復術は、患者様のスポーツ歴などの背景によっていくつかのバリエーションがあります。 手術後の再脱臼のリスクを減らす目的で、バンカート法に加え補強処置をおこなう場合があります。患者様の年齢(特に10代は再脱臼のリスクが高いです)、肩関節の状態、現在おこなっているスポーツ活動の種類によって手術の補強処置をおこなっています。 現在行われているスポーツへの復帰や、今後やってみたいスポーツなどありましたら手術、前に必ず医師にお伝えください。 以下が主な補強処置です。   補強処置①:腱板疎部縫合術 腱板疎部というのは前方の腱板である肩甲下筋腱と棘上筋腱の間のことで、この腱板疎部を糸で縫合し、関節自体の容量を小さくすることで再脱臼を予防するための処置です。 補強処置②:レンプリサージ法 脱臼の際にできてしまった上腕骨頭後方の陥没部分(ヒルサックス病変と言います)にアンカーを挿入し後方の腱板に糸をかけこの陥凹を埋めるように縫い付ける方法です。この陥没が大きいと損傷したバンカート病変にはまり込み、脱臼が起こりやすくなるため、レンプリサージ法が必要になることがあります。 とくに相手との接触機会が多いスポーツ(ラグビー、アメリカンフットボール、サッカー、バスケットボールなど)に関わる患者様の場合は、タックルやトライなどスポーツ活動中の再脱臼の可能性が高いため、腱板疎部縫合術とレンプリサージ法を併用して行います。また、オーバーヘッドスポーツ(野球・ソフトボールなどのボールを投げるスポーツ、テニスやバドミントンなどのラケットを振るスポーツ)の患者様の場合には、投球やスイングの妨げにならないように可動域を確認しながらバンカート修復術のみを行います。 このように患者様のスポーツ内容によって、一人一人に最適な術式を選択して行っております。   Q:肩の脱臼は手術をしないと治りませんか? 脱臼の際に関節唇が損傷(バンカート損傷)した状態で靭帯が一度緩んでしまうと、脱臼がくせになってしまう場合があります。この病態を反復性肩関節脱臼といいます。 反復性肩関節脱臼になると、テーピングや装具で肩を押さえても不安定感が残り再脱臼をおこします。 また肩がいつ脱臼するのかわからないという不安で日常生活が過ごせない、肩の痛みや不安定感があり全力でスポーツができないなどの理由で手術を希望される患者様もいらっしゃいます。 不安な気持ちがある方は一度当院でお話だけでもいただけたら、最適な治療方法をご説明出来ると思いますのでお気軽にお問い合わせください。   Q:肩の脱臼の手術は痛いですか?どのような麻酔をしていますか? 船橋整形外科病院では経験豊富な麻酔科医(麻酔専門医10人)の管理のもと、患者様の術後の痛みを少しでも軽減出来るように、全身麻酔と神経ブロックを併用して麻酔を行っています。 全身麻酔とは、手術中の痛みや意識を取り除き、手術が安全に行えるように患者様の全身状態を維持することです。手術室に入室後、点滴の管から麻酔薬を投与して眠っていただきます。全身麻酔中は深い眠り(無感覚/無意識)のため、口からチューブをいれて人工的に呼吸を管理します。また、手術中および手術後の痛みを最小限におさえるために、神経ブロックも併用します。神経ブロックは執刀直前に麻酔科医により行われます。首の付け根から、肩や腕の神経の周囲に麻酔薬を注射し、肩や腕の痛みを感じる神経をブロックします。 神経ブロックを行うことで、手術後12時間程度はほとんど痛みを感じることはありません。通常、手術後の痛みは術後2日ほど続きますが、神経ブロックの効果消失後は内服薬や座薬などの鎮痛薬に切り替えます。     Q: 肩の脱臼の手術の入院期間はどのくらいになりますか?入院から退院までの流れを教えてください。 通常は3泊4日の入院で、手術後2日目で退院となります。 初日(術前日) 装具合わせ、入浴、リハビリ(術前評価) 2日目(手術当日) 手術、術後3時間で歩行・飲食可能 3日目(手術翌日) リハビリ開始、創部消毒、更衣・シャワー・装具着脱訓練 4日目(術後2日目) 退院   以上が大まかな流れです。ただ患者様の状況に合わせて若干の変更がありますので、必ず医師またはスタッフから説明させていただきます。なにか疑問がありましたらスタッフまでお気軽にお問い合わせください。   Q:退院後の生活は?装具をいつまで装着したらよいですか? 更衣・入浴 退院直後からご自身で可能となります(正しい方法を入院中に指導します) リハビリ 退院後、数日以内に開始します。 通学 退院後すぐに許可しています 抜糸 術後10日目頃に外来で行います(※抜糸前は傷口の汚染に注意してください) 装具 約2-3週間継続します(通常は衣服上に装着します(下図参照)) 運転 装具がはずれてから可能となります     Q:肩の脱臼の手術費用はどれくらいになりますか? 手術方法や患者様の症状などにより費用は若干異なります。おおよその費用は手術前に当院のスタッフから説明させていただきます。当院の場合、3割負担の患者様で入院日数4日間の場合約23万円の自己負担額になります。高額医療制度という、医療費の自己負担額が払い戻される制度を使用することも可能ですので、お気軽にスタッフまで御相談ください。   Q:仕事復帰や競技(スポーツ)復帰の時期はいつごろになりますか? 仕事についてはデスクワークであれば、退院後すぐに許可しております。軽作業の場合は術後2~3ヶ月、重労働の場合は、術後5~6ヶ月頃から可能となる見込みです。 競技復帰に関しては、術後約1ヶ月でジョギングや体幹・下半身の運動を開始します。 手術をした組織の修復には約3ヶ月を要するため、肩に負担のかかる競技やトレーニングの開始は術後約3ヶ月頃となります。 競技完全復帰時期はスポーツ種目や個人の回復具合により異なりますが、術後5~6ヶ月頃を目標とします。競技完全復帰まで継続的にリハビリを行います。術後2年間は診察を継続し、術後6ヶ月、1、2年時に肩の状態を定期的に確認します。   以上になります。他にもなにか質問があれば医師、スタッフにお気軽にご質問ください。   執筆者 看護師:金子誠 医師:星加昭太 当院医師のYoutubeチャンネルです。是非ご覧ください。 ほっしゃん先生の肩肘ラボ  

2020.09.01

ふなせいコラム:肩

 

肩関節周囲炎

肩関節周囲炎とは・・・ 50歳代を中心に多発し、肩関節に痛みと運動制限をもたらす疾患の総称です。 日本では五十肩と同義語的に解釈されています。   原因 発症のプロセスはいまだ明らかではありませんが、肩周囲の筋肉や腱、靭帯、関節包、滑液包などの組織が加齢などにより炎症を生じることが要因と考えられています(図1)。 図1:肩関節周囲炎の主な炎症部位   症状 主症状は、肩周囲の痛みと動きの低下です。特に結髪・結帯・更衣などの日常生活動作が障害されます。 夜間痛(就寝時の痛み)も特徴です。 肩関節周囲炎の病期は、炎症期・拘縮期・回復期に分類され、 症状もそれぞれの時期で異なります(図2)。   炎症期 (痛みがとても強い時期) 明らかなきっかけなく、急速に強い痛みが生じます。多くの場合、安静時痛・夜間痛を伴います。 拘縮期 (肩まわりの動きが硬くなる時期) 強い痛みがやわらいだのち、肩の動きが悪くなる「拘縮」へと移行する時期です。 肩を動かした時に痛みを感じたり、動きの悪さから日常生活動作に不自由を感じることが多くみられます。 回復期 (症状が回復してくる時期) 運動時の痛みや運動制限が次第に改善する時期です。積極的なリハビリを行うことで、 肩の動きの回復が早くなります。 図2:肩関節周囲炎の病期と症状 診断・治療 画像診断:X線画像、関節造影検査、MRIなど 治療:保存療法(服薬、関節内注射、リハビリテーション)、関節鏡視下手術など リハビリテーション 療法士による状態チェック 患者さんの状態に合わせたリハビリを行うため、療法士が患者さんの姿勢や関節の動き、筋力などをチェックし、痛みに関連すると思われる問題点を探ります。(姿勢の観察、動きのチェック、筋力のチェックなど)   病期に合わせたプログラムの実施 得られた情報をもとに病期に合った個別のリハビリプログラムを実施します。 炎症期 痛みに配慮しながら肩周囲の筋肉や関節包の硬さを防いでいきます。 療法士の管理のもと、物理療法や肩甲骨の動きを広げる運動、ストレッチなどを徐々に行っていきます。 また、療法士が自宅で行える運動を指導します。   拘縮期 積極的な運動療法により、肩関節の動きを広げていきます。 療法士の指導のもと、個人のお仕事やスポーツ特性を踏まえた動作練習やトレーニングを行います。   回復期 積極的な運動療法により、肩関節の動きの拡大を目指します。 療法士の指導のもと、肩周囲の筋力強化や腕を挙げるための土台となる肩甲骨を安定させるトレーニングなどを進めていきます。 また、目標とするお仕事やスポーツなどの活動復帰に向けて、それぞれの特性を踏まえた動作訓練を行います。 症状には個人差があります。 いずれの時期も、必ず療法士による指導のもとにリハビリを行うことが大切です。   患者さんからよくあるQ&A Q:四十肩・五十肩は放っておけばいつか治るって本当ですか? A:中にはそのような方もいらっしゃるかもしれませんが、必ず治るとは限りません。  自己判断での放置・または不適切な運動により、症状が悪化したり回復が長引いてしまうケースがあります。  出来るだけ早期に受診し、適切な治療を受けることが大切です。 Q:肩が痛くても、沢山動かした方が早く治りますか? A:必ずそうとは言えません。  安静にしていてもズキズキうずくような痛みがある安静時痛や、  就寝時に痛みで起きてしまうような夜間痛などが生じる炎症期では、  沢山動かすと痛みが強くなってしまいます。  炎症期でなくても不適切な運動により悪化する可能性もあるので、  動かした方がよい時期か医師や療法士の意見を聞くことが重要となります。 Q:四十肩・五十肩はどれくらいの期間で治りますか? A:患者さんの状態には個人差がありますが、約半年~1年かかると言われています。  症状を長引かせないためには、早期から1人1人の状態に合った治療やリハビリプログラムを行うことが大切です。 Q:四十肩・五十肩になってしまった後、テニスや野球などのスポーツに復帰することはできますか? A:多くの場合できます。  ただし、肩の動きや筋力など、各スポーツに必要な機能を獲得してからスポーツを再開することが大事です。  スポーツ復帰を目指すリハビリでは、肩の機能を獲得したのちスポーツに合わせた動作訓練なども行っていきます。  

2020.09.01

ふなせいコラム:スポーツ豆知識

 

アイシングについて

アイシングについて アイシングは、道具を使用するセルフケアの中でも簡便で頻繁にスポーツ現場でも実施されているかと思います。アイシングはどのような症状の方が、どのような方法で実施すれば良いかを今回紹介したいと思います。 どのような症状にアイシングを行った方が良いか? スポーツ現場でよく見られるアイシングの使用方法として、RICE処置(Rest:安静、Ice:冷却、Compression:圧迫、Elevation:拳上) が挙げられます。RICE処置は、スポーツをしている中で起こる急性外傷(捻挫・肉離れ・打撲など)に対する応急処置として推奨されております。怪我をした部位を冷やすことによって、急性炎症や内出血、浮腫(むくみ)を抑制し組織の回復を早めることが期待されます。また、慢性的なスポーツ障害(アキレス腱炎や膝蓋腱炎など)に対しても、痛みを軽減させることが可能です。クールダウンと一緒に実施することで、効果があると言われています。 アイシングの方法 アイシングを実施するうえで、重要なことは1.冷却温度、2.冷却時間、3.インターバル(冷やす間隔)と言われています。 冷却温度:アイシングの冷却温度が氷点下であると凍傷になる恐れがあります。家庭用の冷凍庫で作成した氷は0℃以下に凍っている場合がありますので、すぐに使用はせず、表面が溶け始めてから使用をするようにしてください。 冷却時間:アイシングは、急性外傷・スポーツ障害ともに15~20分程度の実施が望ましいとされています。アイシングを実施すると、①強い冷感, ②灼熱感, ③疼痛, ④感覚消失の順で感じ、感覚が消失するまでに約15~20分と言われています。感覚がなくなったらアイシングを終了するようにしましょう。 インターバル:急性外傷の場合、15~20分のアイシングを1~2時間の間隔をあけて、24~72時間継続することが望ましいと言われています。また、急性外傷後のアイシングは、バンテージによる圧迫と併用することで効果が高いと言われています。スポーツ障害のインターバルは急性外傷ほど繰り返す必要性はありませんが、繰り返す場合は最低2時間以上の間隔をあけることが推奨されています。 具体例①<足関節捻挫(足関節外側靭帯損傷)> 足関節を捻った場合は、まず痛みのある部位を確認してください。(写真は足首を内側に捻って外側の靱帯を痛めた例です。) 足関節外側の靭帯損傷があると考えられる部位(痛みや腫れのある部位)周辺にアイスバッグを当てます(図1)。 バンテージを引っ張って圧迫を加えながら固定します(図2)。 心臓より高い位置に足を挙げて、安静を取ります(図3)。 具体例②<大腿後面(ハムストリングス)の肉離れ> 肉離れのRICE処置の場合には、患部の安静を保つために筋肉の力が抜けた状態に保つことが大切です。 うつぶせで膝関節を曲げることでハムストリングスの力を抜きます。 痛みのある部位を確認して、アイシングを行います(図4)。。 (必要であれば、バンテージで固定をします。) 具体例③<大腿前面(大腿四頭筋)の打撲> 打撲(激しくぶつけた場合)では筋肉が挫滅しているため、損傷した筋肉が伸張される肢位をとることによって筋肉の連続性が正常化されます。 あおむけで膝関節を曲げて大腿前面を伸張させます。 痛みのある部位を確認して、アイシングを行います(図5)。 痛みのない範囲で打撲をした筋肉が伸張された位置になるようにバンテージで固定をします(図6)。 具体例④<野球肘などの慢性障害> 慢性的なスポーツ障害(アキレス腱炎、膝蓋腱炎、野球肘など)にもアイシングは痛みを軽減させる効果があります。 痛みのある部位に対して氷(アイスキューブ・アイスカップ)を当てて動かしながらマッサージをします(図7)。 15~20分(感覚がなくなるまで人によって差があります)のアイシングで取り外します。 アイスキューブを使用する場合は、水滴を拭き取りながら実施をしてください。 アイシングの注意点 アイシングの注意点としては、凍傷や神経損傷が挙げられます。長時間の冷却は、凍傷の危険を伴いますので、感覚がなくなったら終了するように気を付けましょう。睡眠中は過剰な冷却を避けるため、行わないようしましょう。また、冬季など環境温が低い場合や、強風・降雨によって体温が奪われやすい環境では全身の体温低下に注意して実施するようにしましょう。 神経損傷は、肘の内側など神経が皮膚に近い場所で長時間実施することで起こる可能性がありますので注意してください。 また、先にも述べましたがアイスキューブやアイスカップを作成して使用する場合に、家庭用の冷凍庫から取り出した氷、アイスパック用の市販の保冷剤は0℃以下に凍っていることもあるため、表面が溶けてから使用するようにしましょう。 【引用文献】 土屋明弘、佐藤謙次、小松絵梨子:アイシングの適応と注意点, 臨床スポーツ医学Vol.32 (5), pp484-487 加賀谷善教:スポーツ障害に対するアイシングの効果, 臨床スポーツ医学Vol.32 (5), pp488-492 加賀谷善教:寒冷療法, 理学療法学32:pp265-268, 2005 小笠原一生:アイシングが生体に及ぼす影響, 臨床スポーツ医学Vol.32 (5), pp480-483 山本利春:アイシングの実際-凍傷への注意, アイシングの方法, クーリングダウン時のアイシング. Sportsmedicine Quarterly 9:13-21, 1997

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