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ふなせいコラム:股関節

人工股関節全置換術後のリハビリテーション

本稿では、当院における人工股関節全置換術後のリハビリテーションについて紹介します。 (人工股関節全置換術の手術についての概要はこちらから) 当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1. はじめに 2. 手術前のリハビリテーション 3. 入院中のリハビリテーション 4. 退院後のリハビリテーション 5. 最後に   1. はじめに  最小侵襲手術(MIS)は筋肉や軟部組織の損傷を限りなく少なくすることで、術後の身体への負担を少なくし、早期回復が期待できる手術法です。特に当院では日本で初めて筋腱温存に優れた前方アプローチ(DAA)を全例で採用することで、約1週間の入院で歩行が自立し退院することを可能としています。入院中に十分なリハビリを行うため、術後のリハビリテーションの通院頻度はそれほど多くありません。退院後、自宅で毎日セルフエクササイズを行うことで、十分な成果を上げることができます。そのため、遠方の方でも手術を受けやすい環境になっております。   2. 手術前のリハビリテーション  手術が決まった段階からリハビリテーションを開始します。手術前からリハビリテーションを開始することで、血流循環を良くし、筋柔軟性を高め、患部以外の筋力が向上し、術後のリハビリテーションをスムーズに遂行できるようになります。   3. 入院中のリハビリテーション ● 日常動作練習  当院では、術後1日目からリハビリテーションが始まります。理学療法士・作業療法士の指導のもと、ベッド周囲の動作練習や立ち上がり練習、歩行器を用いた歩行練習やトイレ動作の確認を行います。早期離床をすることで深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の予防や、入院期間の短縮が期待できます。  術後2日目以降からは杖を用いた歩行や階段昇降、屋外の歩行も確認します。また、靴下の着脱動作や物を拾う動作、床上動作などの日常生活動作の確認も行います。入院中に集中的にリハビリテーションを行うことで、ほとんどの方が安定して杖歩行で退院することができています。 歩行器を使った歩行練習    階段昇降の練習   ● 脱臼予防指導  術後3週間は脱臼危険性が高くなるため、脱臼を防ぐための動作指導を実施しています。脱臼しやすい姿勢(禁忌肢位)となる動作の確認を行い、退院までに日常生活の中で禁忌肢位が起こりやすい場面でも安全にお過ごしいただけるように確認・練習を繰り返し行います。   ● 退院前教室  退院前には日常生活の動作指導や日常のちょっとした注意点を講義と実技指導を交えて行う退院前教室を開催しています。講義では退院後に許可される動作や就労活動の確認、脱臼についてなどを詳しく説明します。実技指導では日常生活で行う動作を練習します。自宅の状況に応じて布団に寝るための床上動作の練習などの動作を確認します。他にも歩行速度の計測、体組成の測定を行い退院後の生活がイメージしやすくなるような個別の説明も含めて行っています。   教室に参加していただく利点は、同じ手術をされた方が集うため、症状などの共有や自身が気付かなかったことでも他者の質問により知ることができ、退院後の不安を少しでも軽減できることです。   床上動作の練習    安全な靴下の履き方   教室の様子   4. 退院後のリハビリテーション  術後3週・6週・12週に定期外来診察があり、同じ日に外来リハビリテーションも並行して行います。時期によってできることが増え、リハビリテーションの実施目的も変化するため、段階的に新しいセルフエクササイズを指導させていただきます。  ※術後3週以降は、主治医と相談のうえ週1回の外来リハビリテーションに通院される方もいらっしゃいます。   術後3週までは、腫脹が増強しないよう炎症を管理しつつ、股関節の可動域を広げるようなストレッチングを中心に行います。この期間、痛みや腫れをコントロールしつつ、股関節の動きを徐々に回復させます。   術後3週からは、状態に合わせて徐々に筋力を強化していきます。殿部の筋力を強化することによって歩容の改善や、スポーツを希望される方はその競技の動作に向けた運動を行います。術後3ヵ月になるとハイインパクトスポーツ(マラソンなど)やコンタクトスポーツ(サッカーやラグビーなど)以外のスポーツ活動が許可されます。手術後でも生涯スポーツを楽しんでいくことが可能です。   セルフエクササイズの指導の様子   5. 最後に  人工股関節全置換術後のリハビリテーションは、家屋などの住環境・生活環境や身体の状態に合わせて皆様の「手術後にこうなりたい!」という目標や希望に合わせて提供させていただきます。手術は大きな決断ですが、より良い生活を送るための選択肢の一つになります。「手術を受けたい!」とまではいかなくても、股関節の痛みや日常生活における股関節可動域制限などでお困りの方は、まずは第1歩として、当院の診察に来て相談していただきたいと思います。     執筆:病院理学診療部 中村周平 監修医師:三浦陽子

ふなせいコラム:股関節

変形性股関節症のリハビリテーション

変形性股関節症(股関節痛がある人)のリハビリ   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1. 変形性股関節症とは 2. 変形性股関節症の症状 3. リハビリテーション 4. セルフチェックシート 5. 最後に   1. 変形性股関節症とは  変形性股関節症は関節軟骨の退行性変化をきっかけに股関節の関節破壊・変形をきたす疾患です。原疾患が明らかでない一次性と何らかの疾患、病態に続発する二次性に分けられます。高齢者が要支援者(要支援1.2)になる原因の第一位は関節疾患であり、痛みや運動機能の低下を引き起こし日常生活動作作能力が低下することで自立した生活が困難となる大きな要因となっています。   2. 変形性股関節症の症状  初期段階としては動きはじめに鼡径部痛を認め、病期の進行とともに関節可動域制限、筋力低下、歩行障害、日常生活動作へ支障をきたすなどの症状が挙げられます。  変形が進行すると、その痛みが強くなり、場合によっては持続痛(常に痛む)や夜間痛(夜寝ていても痛む)に悩まされることもあります。   3. リハビリテーション  当院の変形性股関節症に対するリハビリテーションでは、痛みの軽減や身体機能改善・維持、または日常生活動作の維持・拡大を目的に関節可動域運動、筋力強化運動、歩行練習、生活指導などを行います。   ・ストレッチやマッサージによる柔軟性の改善  1. おしりのボールストレッチ  2. うつ伏せ ももの前のストレッチ  3. 座位四股(内もも、お尻)  4. 棒体操(胸周りのストレッチ) 図1-1 おしりのボールストレッチ   図1-2 ももの前のストレッチ   図1-3 座位四股   図1-4 棒体操①               図1-5 棒体操②   ・股関節周囲の筋力トレーニング  1. うつ伏せ 股関節外転  2. 股関節 外旋 図2-1 股関節外転 図2-2 股関節 外旋     ・日常生活指導  1. 杖の持ち手 振り出し方  2. 階段の降り方  3. 床への立ち座り  4. 車の乗り降り    4. セルフチェックシート  ① 痛みはないが、股関節(付け根、お尻)に違和感がある  ② 股関節が硬いため、靴下がはきにくい、爪が切りにくい  ③ 立ち上がる時に股関節が痛む  ④ 歩き初めに股関節が痛む  ⑤ 階段を昇り降りする時に股関節が痛む  ⑥ 長時間歩くと股関節が痛む  ⑦ 歩いているとき股関節がずっと痛い  ⑧ 痛みがある方の足を引きずって歩いている  ⑨ 上体を左右に揺らしながらでないと歩くことができない   5. 最後に  当院では股関節の状態を医師が判断し、療法士が各自に合った運動を作成、指導しています。股関節に痛み・違和感がある方、セルフチェックシートで1つでも当てはまる症状がある方は一度診察にいらしてください。   執筆:病院理学診療部 小吹祥平 監修医師:三浦陽子

ふなせいコラム:スポーツ豆知識

足関節捻挫のリハビリテーションについて

当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1. 足関節捻挫とは 2. どんな症状がおこる? 3. リハビリについて 4. さいごに   1. 足関節捻挫とは  足関節捻挫とは主にスポーツなどで見られる言わば捻ることで靭帯損傷を引き起こす足関節の怪我です。足関節に不安定感を感じるようになり、そのままにしておくと慢性化し何度も繰り返し、また足部の軟骨損傷、股・膝関節にも影響を及ぼします。そのため足関節捻挫は怪我をした後すぐに適切な処置とその後のリハビリテーションが重要になります。     2. どんな症状がおこる?  足関節は関節の外側に3つの靭帯、内側に1つ靭帯があります。内側に捻ることで外側の靭帯、外側に捻ることで内側の靭帯の損傷が引き起こされます(図1)。怪我した後すぐは腫れや痛みなどが生じます。軽症であればすぐに歩けます。またスポーツをすることができますが、重症のときは痛みなどで歩くのすらままならないケースもあります。そのほかにも動きの制限や筋力低下・バランス機能低下などの様々な症状が引き起こされます。 図1   3. リハビリについて ・受傷直後はなにをする?  受傷後直後は炎症を抑えることが大事です。一般的にはRICE処置(R:Rest安静、I:Icing冷却、C:Compression圧迫、E:Elevation挙上)を行います(図2)。  痛みや腫れがひどく、歩けないケースもあるためその際は松葉杖の使用やシーネ固定を行うこともあります。スポーツの復帰を希望される方には他の筋肉を落とさないように足以外のトレーニングを行います(図3)。 図2:アイシング   図3-1:体幹トレーニング 図3-2:おしりのトレーニング   ・痛みやはれが落ち着いてきたら  徐々に足を動かしていき、腫れや痛みで硬くなってしまったところの動きをよくしていきます。まずは痛みのない範囲からゆっくり動かしていきます。腫れや痛みの悪化がなければ徐々に回数を増やしタオルを用いたストレッチなどに移行していきます(図4)。 図4:足のストレッチ   ・動きがでてきたら  ある程度動きがでてきたら落ちてしまった筋力を戻す運動を始めます。初めは痛みがない範囲で足をつけないで行うチューブなどを用いてふくらはぎやすねの筋肉を動かしていきます(図5)。回復にあわせてつま先立ちやスクワットなど足をつけたトレーニングを開始していきます(図6)。 図5:チューブ運動   図6-1:つま先立ち 図6-2:スクワット   ・足が痛みなくつけるようになってきたら  不安定感をなくすためのバランストレーニングを開始します。片脚立ちや柔らかいマットやバランスボール上で立つなどのトレーニングをしていきます(図7)。バランストレーニングは再受傷しないためにも重要なトレーニングになってきます。 図7-1:片脚立ち 図7-2:バランスボール上   スポーツ復帰を希望される方は上記トレーニングに併せ競技復帰に向けたリハビリテーションを開始していきます。   4. さいごに  足関節捻挫は軽視されやすい怪我ですが、冒頭でも述べた通り正しい処置を行わないと慢性化し日常生活・スポーツパフォーマンスにも影響を及ぼし、時には重大な怪我にもつながりかねません。当院では足の状態を医師が判断したあと、各自に合った運動を療法士が作成し指導しています。受傷し炎症症状を伴う場合もしくはすでに慢性化してしまっている場合でも一度診察にいらしてください。     執筆:船橋理学診療部 山口彩音 監修医師:高橋謙二

ふなせいコラム:肩

「腱板断裂」について整形外科医が解説

当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 腱板断裂とは? 修復が可能な腱板断裂に対する手術方法について 修復が困難な腱板断裂に対する手術方法について   腱板断裂とは? 腱板とは?:  人の腕は体の横に張り出すようについており、重力で下方に引っ張られているので不安定な状態です。それを肩の受け皿(肩甲骨関節窩)を支点として上下左右に動かすためには体の方に引き付けて安定化しなければいけません。その役割を担っているのが腱板です。 腱板に腕を動かす作用もありますが、主に動かす筋肉は三角筋、大胸筋、広背筋などの体の表層にある大きな筋肉です。  腱板は体と腕をつなぐようについています。体側は肩甲骨から始まり、腕の方は前、上、後ろを包み込むようについています。体側は4つの筋肉(肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋)から成り立っていますが、腕に付着するところは一体化し板状の腱組織になっています(図1)。 図1-1 腱板断裂がない肩。腱板は上腕骨外側につながっている(矢印) 図1-2 腱板断裂の肩。上腕骨への付着部で腱板が断裂する     腱板断裂とは?  腱板が切れて穴があいてしまうことです。原因は加齢による変性と外傷と言われています。例えば、20-50代であれば交通事故や高所からの転落など、強い力がなければ切れることは少ないですが、70-80代になると長年使っている腱は弱くなってきているので、手をつくなどの軽い外傷でも切れることがありますし、知らない間に切れていることも少なくありません。明らかな外傷歴があるのは6割です。   症状:  腱板断裂の症状は夜間痛、動作時痛、筋力低下、肩の可動域制限です。しかし、これらの症状は他の肩疾患でもよくみられますので区別はつけにくいです。腱板断裂を疑う特徴的な訴えは、肩より上に手を挙げて作業をしていると重くなってくる、何度も上げ下げしていると挙げられなくなる、食卓の上の物に手を伸ばそうとしてもすぐに手が出ないなどです。肩の可動域が良いのに力が入りにくい、挙げたり降ろしたりする時に途中が引っかかるように痛いと腱板断裂の可能性が高いです。   鑑別診断:  腱板断裂の症状と類似し、考えないといけない疾患は首の神経由来の病気です。腕を挙上する、手を使うなどの指令を出しているのは脳です。脳から大きな神経が首、背中、腰の骨の中を通り、それぞれの筋肉に枝を出して動かしています。肩を動かす神経は首を通っているのでそこが障害されると腕が上がらなくなります。首が原因の典型的な症状は首を後ろに曲げると電流が走るようなビリビリする痛みが肩から指先まで走ります。また肩を挙上する筋肉と肘を屈曲する筋肉は同じ神経なので、肘を屈曲する筋力も一緒に弱くなります。そのような場合は肩ではなく首の治療を行います。   腱板断裂の診断:  診察と問診に加えて画像検査にて行います。それぞれの検査に利点と欠点があるため選択して行っています。 MRI:腱板断裂の検査に必須です。腱板が切れている様子(図1-2、図2)、筋肉の萎縮の様子(図3)など多くの情報があります。ドーナッツ型の狭い機械の中に20分入り撮影するため、閉所恐怖症の方はできません。   右肩を正面から見たMRI 図2-1 正常(腱板断裂なし)。黄色の点線が腱板 図2-2 腱板断裂。上腕骨付着部で断裂して内側に引き込まれている   左肩を左側面から見たMRI 図3-1 正常(筋委縮なし)。黄色の点線で囲った黒い部分が正常な筋肉です。 図3-2 筋萎縮・脂肪変性像。棘上筋と棘下筋の筋肉(黒)が萎縮して脂肪(白)に変わっています。   単純X線:大きな腱板断裂だと上腕骨と肩峰(肩甲骨の上の部分)との間が狭くなるので診断できます。年齢と共に徐々に傷んできている場合は骨棘という骨のでっぱりが肩峰の下や上腕骨の大結節にできているのが腱板断裂を疑う所見です。左右の肩を比べてみると動きを代償するために肩甲骨の位置に左右差があることもあります。 超音波検査:5cm程の機械を肩に当てて行います。腕を動かしながら観察することができ、痛みもありません。腱板断裂の有無や大きさを判断できます。機器の進歩によりきれいに見えるようになりましたが、全体像をみることができません。   腱板断裂の治療法:  腱板断裂は年齢と共に増える疾患で、一般住民の方を検査した報告では50歳以下では5%でしたが、60歳代で25%、70歳代で45%の人に腱板断裂があったそうです。しかし、腱板断裂があった人のすべてに症状があったわけではなく、65%の人は無症状だったそうです。その方たちはどうして症状がなかったかと言うと、利き手と反対側であまり使っていなかったこと、肩の可動域が良好だったこと、残存腱板で筋力が保たれていたことだったそうです。  腱板は一度断裂してしまうと自然経過で元に戻ることはありません。手術によって治してしまうことが一番ではあるのですが、手術をしなくても、急性期がすぎて炎症が治まると痛みがひき、日常生活に困らなくなることもあります。しかし、良くなったと思ってそのままにしておくと徐々に断裂の大きさが大きくなり、力が入り難くなることもあります。  以上のことから、腱板断裂はすべて手術するものではなく、患者さんと相談して手術を決めています。目安としては80歳以下で活動性の高い方、3カ月程リハビリしても痛みや筋力低下が残る方、大きい断裂のためこれ以上大きくなると修復できない方、切れた断端がひっかかるような痛みが強い方が主な手術適応です。   腱板断裂の保存的治療(手術をしない方法):  急性期の痛みが強い場合は鎮痛剤(ロキソニンなどNSAIDs、アセトアミノフェン、トラマドール塩酸塩)内服、関節内注射(ステロイドと局所麻酔剤の混合液)を行います。リハビリで患部の安静とリラクゼーションのために就寝時の枕やタオルを用いた姿勢の指導を行います。  強い痛みが引いたら積極的にリハビリを行います。腱板断裂では肩甲骨と上腕骨の正常な動作ができなくなり、代償動作を行っています。肩甲骨周囲の筋肉が張ってしまい、肩甲骨が動きにくくなっているため、周囲の筋肉をリラックスさせ、正常な動作に近づけるリハビリをします。また腱板断裂によって腕を体にひきつける力のバランスが崩れているため、残っている腱板で代償してうまく使えるようにリハビリします。  保存的治療で痛みがなくなり、日常生活で支障がなくなるかどうかは患者さんの状態によって異なります。3カ月程リハビリをすると、そのままリハビリで改善するか、手術しないとよくならないかがはっきりします。   腱板断裂の手術方法:  腱板断裂のため日常生活に支障があり、リハビリや投薬で改善しない場合に手術を検討します。手術は腱板断裂の重症度(切れている大きさ、腱の質など)によって異なります。 腱板は筋肉で出来ているため、切れてしまうとゴム紐が切れたように奥に引き込まれてしまいます。また、時間とともに腱の質が悪くなったり筋肉の萎縮が強くなったりして修復が困難になることがあります。  腱板の断端を引っぱって元のところに戻せれば、腱板を糸で修復する手術を行います。切れてから長い時間が経ち、断裂が大きくなったり筋肉が萎縮したりして元のところに縫合できない場合は、上方関節包再建術や筋前進術、リバース型人工肩関節置換術を行います。  麻酔は全身麻酔と腕神経ブロックで行います。腕神経ブロックは首の付け根に注射をして肩から腕にいく神経を麻酔します。この注射によって最も痛みの感じる術後12時間はほとんど痛みを感じることがありません。入院期間は手術の前日に入院して、術後4-5日で退院するので、5泊6日または6泊7日です。     修復が可能な腱板断裂に対する手術方法について 腱板修復術:  当院では内視鏡を用いた、鏡視下腱板修復術を行っています。皮膚に5~10mm程の穴を5~8か所あけて関節鏡を入れて修復します(図4、5)。     小断裂の左肩術中関節鏡写 図4-1 修復前 図4-2 修復後   右肩の鏡視下手術の様子:内視鏡と機械を肩に入れてモニターを見ながら手術をします。 図5    糸のついたアンカー(図6)を元々腱板がついていた骨の部位に打ち込んで、その糸を断裂した腱板の断端にかけて、かけた糸を外側に別のアンカーを打って固定します(bridging suture法) (図7)。アンカーはプラスチックや骨に置き換わる素材で作られているため、特に問題なければ後になって抜く必要はありません。患者さんの肩の状態によって手術の難易度が異なるので手術時間は1-3時間ほどです。   図6   右肩(大きさ中程度の腱板断裂)を左肩を横から見た図 図7-1 断裂した腱板が元々ついていた上腕骨の位置にアンカーを2 本挿入して、引き込まれた腱板に糸をかけます。 図7-2 さらに外側ににアンカーを2本挿入して腱板にかけた糸を固定します。   修復が困難な腱板断裂に対する手術方法について 1.上方関節包再建術  棘上筋や棘下筋の大きな断裂では筋肉の高度な萎縮や変性を認める場合もあり、そのような場合には先ほど述べたような手術では十分に修復できない場合があります。仮に何とか修復しても再断裂のリスクが高くなります。上方関節包再建術は大腿部より採取した筋膜を腱板断裂部に移植し、さらに可及的に残存腱板を修復する手術です。このような方法により、萎縮し菲薄化した腱板に厚みをもたせて修復することができます。当院では大腿筋膜採取部以外は関節鏡視下に手術をおこなっております。また当院では肩関節を専門とした医師が数名で助手にはいることで、協力して腱採取と腱板修復を同時におこなっております。また本手術では関節を温存できることもメリットです。移植した筋膜や修復した残存腱板が骨に癒合するまで数か月かかりますが、術後のリハビリテーションにより可動域や疼痛が改善することが期待できます。(図8)   図8-1 腱板大断裂の図です。小中断裂では断裂した腱板を引っ張ってくることで十分修復することが可能ですが、大きな断裂では残存腱板のみでは修復ができない場合もあります。 図8-2 大腿筋膜を移植することで大きな腱板断裂に対しても修復することが可能になります。     2.筋前進術  上記と同様に、修復が困難と思われる大きな断裂に対しておこなわれる手術です。 棘上筋や棘下筋を肩甲骨の内側から剥がすことで、腱板を外側まで引き出すことができるようになります。本術式はすべて関節鏡視下に手術をおこなっており、少ない侵襲で手術をおこなえることがメリットです。近年導入している手術のため、まだ長期成績については不明です。(図9)   図9-1 大きな腱板断裂のイメージ図です。筋前進術も上方関節包再建術と同様に、比較的大きな腱板断裂に対しておこなう手術です。 図9-2 棘上筋や棘下筋は肩甲骨のさらに内側にある菱形筋と連続しているため、その連続性を保ちつつ肩甲骨から棘上筋や棘下筋を内視鏡下に剥がすことで、腱板を引き出して縫合できるようになります。   3.リバース型人工肩関節置換術  腱板断裂性関節症など腱板機能が破綻し修復不能な症例に対して,疼痛の改善と肩関節 機能の獲得を目的とする手術です。リバース人工肩関節置換術の適応は原則65 歳以上とされています。自動挙上が 90 度以下に制限されており、活動性のあまり高くない高齢者が最もよい適応とされています。手術のメリットは、腕の挙上や疼痛の改善が期待できる点です。また、デメリットとしては、背中に手を回す動作(内旋)の制限が残りやすいことがあります。通常の肩関節置換術では、人工関節のボール部分が上腕骨に取り付けられ、ソケット部分が肩甲骨に取り付けられます。しかし、リバース型ではこれが逆になります。具体的には、肩甲骨にボールが取り付けられ、上腕骨にソケットが取り付けられます。(図10) 図10    この手術方法によりリバース型人工肩関節置換術では三角筋が肩の主な動力源として使えるようになり、腱板が断裂していても肩の動きが改善されることが期待できます。当院での術後成績は安定しており、学会や論文でも発表しております。また当院では術前に撮影したCT画像をもとに、ナビゲーション手術(図11,正確に人工関節が設置されるようにコンピュータが支援)やPSI(図12,各患者の骨形態に合わせて立体的に作成した器械)を用いておこなうことも多く、より正確で丁寧な手術を心がけています。   当院でおこなわれているナビゲーション手術の様子です。CTデータを用いた術前計画に基づいて人工関節の設置位置・方向がコンピュータ画面上で指示されます。 図11 リバース型人工肩関節置換術のナビゲーション手術     当院で実際に用いているPSIの写真です。手術前に撮影したCT画像をもとに、各患者さんの骨形態に合わせてオーダーメイドで業者が作成した器械です。手術の際に滅菌して骨にあてることで、より正確な位置に人工関節を設置することができます。 図12 リバース型人工肩関節置換術で用いているPSI   手術後:  患部の安静のために、状態によって3~6週間装具を装着します(図13)。また手術後は肩の動きが硬くなりやすいのでリハビリが大事です。術翌日からリハビリを開始して、退院後は週に1-2回通院リハビリを行います。  退院後は車の運転など日常生活を送ることが可能です。手術をした組織の修復には約3カ月を要するため、再断裂は3カ月以内に多いと言われています。したがって肩に負担のかかかる軽作業が術後3カ月から、重労働やスポーツ活動は術後6カ月からにしています。  また当院では腱板修復後や人工関節後のスポーツ復帰に関しても積極的に支援しております。学会や論文でも発表しており、良好な成績がでております。  また必ず手術する前に10名ほどの肩を専門とする医師やその他にも理学療法士や看護師と交え、手術する患者さん1人1人に対してカンファレンスをおこなっており、それぞれの患者さんの需要に応じて最適な手術方法を選択し、ベストを尽くせるように心がけております。   当院で肩の術後に用いている装具です。入院期間中に看護師や理学療法士の指導により、自己脱着やシャワー浴が可能となります。通常の腱板断裂の手術や人工関節の手術では3-4週間です。大腿筋膜移植を併用した場合などは6週間程度の装具装着が必要となることもあります 図13 肩の術後に用いられる装具   執筆者 医師:上條秀樹、松葉友幸

 
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