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2025.03.07
本稿では、当院における人工股関節全置換術後のリハビリテーションについて紹介します。
(人工股関節全置換術の手術についての概要はこちらから)
目次
1. はじめに
2. 手術前のリハビリテーション
3. 入院中のリハビリテーション
4. 退院後のリハビリテーション
5. 最後に
最小侵襲手術(MIS)は筋肉や軟部組織の損傷を限りなく少なくすることで、術後の身体への負担を少なくし、早期回復が期待できる手術法です。特に当院では日本で初めて筋腱温存に優れた前方アプローチ(DAA)を全例で採用することで、約1週間の入院で歩行が自立し退院することを可能としています。入院中に十分なリハビリを行うため、術後のリハビリテーションの通院頻度はそれほど多くありません。退院後、自宅で毎日セルフエクササイズを行うことで、十分な成果を上げることができます。そのため、遠方の方でも手術を受けやすい環境になっております。
手術が決まった段階からリハビリテーションを開始します。手術前からリハビリテーションを開始することで、血流循環を良くし、筋柔軟性を高め、患部以外の筋力が向上し、術後のリハビリテーションをスムーズに遂行できるようになります。
● 日常動作練習
当院では、術後1日目からリハビリテーションが始まります。理学療法士・作業療法士の指導のもと、ベッド周囲の動作練習や立ち上がり練習、歩行器を用いた歩行練習やトイレ動作の確認を行います。早期離床をすることで深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の予防や、入院期間の短縮が期待できます。
術後2日目以降からは杖を用いた歩行や階段昇降、屋外の歩行も確認します。また、靴下の着脱動作や物を拾う動作、床上動作などの日常生活動作の確認も行います。入院中に集中的にリハビリテーションを行うことで、ほとんどの方が安定して杖歩行で退院することができています。
歩行器を使った歩行練習
階段昇降の練習
● 脱臼予防指導
術後3週間は脱臼危険性が高くなるため、脱臼を防ぐための動作指導を実施しています。脱臼しやすい姿勢(禁忌肢位)となる動作の確認を行い、退院までに日常生活の中で禁忌肢位が起こりやすい場面でも安全にお過ごしいただけるように確認・練習を繰り返し行います。
● 退院前教室
退院前には日常生活の動作指導や日常のちょっとした注意点を講義と実技指導を交えて行う退院前教室を開催しています。講義では退院後に許可される動作や就労活動の確認、脱臼についてなどを詳しく説明します。実技指導では日常生活で行う動作を練習します。自宅の状況に応じて布団に寝るための床上動作の練習などの動作を確認します。他にも歩行速度の計測、体組成の測定を行い退院後の生活がイメージしやすくなるような個別の説明も含めて行っています。
教室に参加していただく利点は、同じ手術をされた方が集うため、症状などの共有や自身が気付かなかったことでも他者の質問により知ることができ、退院後の不安を少しでも軽減できることです。
床上動作の練習
安全な靴下の履き方
教室の様子
術後3週・6週・12週に定期外来診察があり、同じ日に外来リハビリテーションも並行して行います。時期によってできることが増え、リハビリテーションの実施目的も変化するため、段階的に新しいセルフエクササイズを指導させていただきます。
※術後3週以降は、主治医と相談のうえ週1回の外来リハビリテーションに通院される方もいらっしゃいます。
術後3週までは、腫脹が増強しないよう炎症を管理しつつ、股関節の可動域を広げるようなストレッチングを中心に行います。この期間、痛みや腫れをコントロールしつつ、股関節の動きを徐々に回復させます。
術後3週からは、状態に合わせて徐々に筋力を強化していきます。殿部の筋力を強化することによって歩容の改善や、スポーツを希望される方はその競技の動作に向けた運動を行います。術後3ヵ月になるとハイインパクトスポーツ(マラソンなど)やコンタクトスポーツ(サッカーやラグビーなど)以外のスポーツ活動が許可されます。手術後でも生涯スポーツを楽しんでいくことが可能です。
セルフエクササイズの指導の様子
人工股関節全置換術後のリハビリテーションは、家屋などの住環境・生活環境や身体の状態に合わせて皆様の「手術後にこうなりたい!」という目標や希望に合わせて提供させていただきます。手術は大きな決断ですが、より良い生活を送るための選択肢の一つになります。「手術を受けたい!」とまではいかなくても、股関節の痛みや日常生活における股関節可動域制限などでお困りの方は、まずは第1歩として、当院の診察に来て相談していただきたいと思います。
執筆:病院理学診療部 中村周平
監修医師:三浦陽子
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