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2022.02.19
初めに
今回は船橋整形外科病院 人工関節センター医師より、膝に痛みのある患者さまに向けてその治療方法などについて解説させて頂きたいと思います。
膝の痛みをセルフチェックしてみましょう。
まずはじめに、膝の痛みのセルフチェック方法について説明させていただきたいと思います。以下の項目を読んでいただいて、何個当てはまるかチェックしてみましょう。
□立ち上がり動作や歩きはじめに膝が痛い。
□30分以上歩くと膝が痛くなる。
□階段の上り下りをすると膝が痛い。
□正座やしゃがみ込みができない。
□胡座(あぐら)が辛い。
□膝が腫れる(水が溜まって腫れる)。
□膝を動かすと変な音がする(骨が擦れてギシギシ音がする)。
いかがでしょうか?
これらの項目が複数該当する方は「変形性膝関節症」と言われる病気かもしれません!
そのまま放置しておくと、膝の痛みが増強し歩くことが困難になり日常生活に支障を来す可能性があります。一度整形外科を受診することをおすすめいたします。
次に変形性膝関節症の原因と膝の痛みの関係について解説させていただきたいと思います。
膝関節では、骨と骨が接している部分に、様々な軟骨(関節軟骨や半月板など)が存在します。これらの軟骨は、衝撃を吸収したり体重を分散し、膝の動きをスムーズにする役割があります。
加齢や肥満(太っている)、重労働や激しいスポーツ、これまでの生活環境など様々な原因が重なり、軟骨が擦り減ってしまい骨と骨が直接当たってしまい膝の痛みが生じます。これが変形性膝関節症の膝の痛みが発生する原因です。
変形性膝関節症を治療せず放置しておくと、歩くことが困難になったり正座やしゃがみ込み動作が困難になり、日常生活に支障が生じて生活の質が損なわれます。
さらに変形性膝関節症は治療をしないと悪循環に陥ります。
膝が痛い→動かなくなる→筋力が低下&体重が増加→変形性膝関節症の悪化→膝が痛い→…
といった状態に陥り悪化していきます。傷んだ膝の軟骨は、自力での治療は困難です。できるだけ早期に治療を開始することをおすすめいたします。
まず、膝の痛みが本当に変形性膝関節症によって生じたものなのかレントゲン撮影を行い確認します。そしてレントゲン画像をもとに変形性膝関節症の進行具合を確認し、治療方法を検討します。
変形性膝関節症の治療方法は大きく分けて「手術を行わない保存療法」と「手術療法」の2つがあります。
更に近年では、その2つに加えて自費(保険適応外)で行う再生医療と言われる治療も行われるようになってきています。
次の項目では変形性膝関節症の「手術を行わない保存療法」と「手術療法」について説明させていただきたいと思います。
再生医療について詳しく知りたい方は船橋整形外科グループ「みらいクリニック」のホームページをご参照ください。
変形性膝関節症と診断したら「いきなり手術」というわけではなく、まずは手術を行わない保存療法を行っていきます。
変形性膝関節症の保存療法は主に以下の4つです。これらを変形性膝関節症早期から行うことにより進行を遅らせ膝の痛みを軽減することができます。
消炎鎮痛剤(内服薬や外用薬)
ステロイド注射
ヒアルロン酸注射
などです。
消炎鎮痛剤やヒアルロン酸などの薬剤を投与することにより、膝関節内の痛みの原因となる炎症をおさえ、膝の痛みを緩和させます。副作用として内服薬による消化管障害、 腎/肝機能障害、 心血管障害、 精神症状などありますので必ず医師の指導のもと適切に内服をしてください。
また、外用薬による皮膚トラブル、非常に稀ですが関節内注射時に細菌が入り感染を起こす可能性があります。
足底板
サポーター
杖
などです。
目的は、膝関節の異常運動や不安定性の改善と足の向き(O脚など)を修正して膝の痛みを緩和することです。
装具療法の問題点は、装具が合わなければ皮膚トラブル を起こす可能性があることや長期使用による筋萎縮、関節への影響などがあげられます。ポイントとしては患者さんに合った装具選択・装着期間が重要です。当院でも対応できますのでご相談ください。
ストレッチ
可動域訓練
筋力訓練(スクワット、足持ち上げ訓練、太ももの筋力訓練、足開き訓練など)
水中運動(プール)
などです。
当院で最も力を入れている分野です。
運動療法は非常に重要です。膝周囲の筋肉が強くなると、膝の動きが安定し、膝にかかる衝撃や負担を減らし痛みの軽減につながります。また関節液の循環が改善し、軟骨への栄養供給が改善し、軟骨の質を良好に維持する効果があります。
電気・超音波器具
などです。
目的は温める事によって血液の循環を促し膝の痛みを軽減させることです。
保存療法でも膝の痛みが良くならず、症状が進行してしまった場合は手術療法を検討します。
変形性膝関節症に対する手術は、重症度や症状の進行具合によって主に4種類あります。その手術の適応と方法を解説したいと思います。
初期の変形性膝関節症にのみ適応となる手術です。
膝の関節に数箇所(大体2から3箇所)の小さい穴を開けてカメラを挿入し、傷んだ半月板や軟骨を取り除いたり修復する方法です。この治療方法は一時的な除痛と変形を遅らせることが主な目的です。
手術療法の中では、入院期間も短く手術後の回復も早いです。当院の関節鏡視下手術の詳細はこちらからご確認ください。
高位脛骨骨切り術とは、脛骨を骨切りし足全体のO脚変形を矯正する手術法です。正常に近い角度に足を矯正する事により、膝の内側の痛みを取り除くことが可能です。
自分の関節を全て温存しているため、人工関節手術と比べ、スポーツや重労働(農作業や物を持つ仕事など)への復帰に有利です。正座も70%以上の確率で可能と報告されています。
適応は重症でない変形性膝関節症であり、比較的活動性の高い患者さんに適しています。
入院期間は10日間です。手術後約1ヶ月は松葉杖が必要です。順調に経過すれば、手術後3ヶ月頃から運動復帰が可能となります。
人工膝関節単顆置換術とは、膝の悪くなっている部分だけ(主に内側)を人工関節に置き換える方法です。膝の半分以上は正常な部分が温存されるため、手術侵襲が比較的小さく、膝の自然な動きが保たれます。特に、高齢者や早期に仕事復帰を希望される場合に有利です。
適応は、高位脛骨骨切り術と同じく重症でない変形性膝関節症です。
入院期間は8〜10日となっています。
人工膝関節全置換術とは、膝の傷んだ軟骨や骨の表面を除去し、金属製の人工関節と軟骨の役割を行うポリエチレンに入れ替える手術法です。感染した膝などを省けば、基本的に重症なものを含め、どのような膝に対しても行えます。
人工膝関節全置換術は、変形性膝関節症に対し最も広く行われている手術です。歩行時の除痛効果に比較的優れていますが、高位脛骨骨切り術や人工膝関節単顆置換術と比べ手術侵襲は大きくなります。また、手術後のリハビリ治療が非常に重要です。
人工膝関節置換術を受けるかどうか悩まれている患者さまからは、不安な声や心配な点が多く聞かれます。
そこで患者さまの不安を軽減するために、当院人工関節センターで手術を受けられた患者さまから多数あった質問について答えていきたいと思います。
A:
膝の傷んだ骨や軟骨の表面だけを削り、金属製の人工関節をかぶせる手術です。
下の写真が当院で行った人工膝関節置換術のレントゲン写真です。白く写っているものが悪くなった骨の換わりになる金属製の人工関節です。またレントゲン写真には写っていませんが白く写っている金属の間に、直接金属と金属がぶつからないように関節軟骨と同じクッションの働きをするポリエチレンが入っています。
A:
手術前の痛みは軽減し、一人で買い物に行ったり家事をしたりすることが可能です。車の運転も可能で、自転車に乗られている方もいらっしゃいます。
また比較的衝撃の少ない運動(散歩、水泳、ハイキング、ボーリング、ゴルフ、テニスなど)なら可能です。サッカーやバスケットなど、他の選手と衝突したり衝撃の大きな運動に関しては推奨されていないため、主治医との相談が必要です。
正座や膝立て動作に関しては、困難な方が多いです。
畑仕事への復帰も可能ですが、全般的に言えることは、手術後のリハビリ(膝の曲げ伸ばしや筋力の回復)が重要となります。
手術後1〜2ヶ月で軽作業、3ヶ月で重労働が可能となります。
A:
手術翌日から歩く練習を開始します。早すぎると思われる方もいらっしゃるとは思いますが、手術後早期から練習を始める事により、筋力の低下を防ぐことができます。また早期から動くことにより麻酔の合併症(副作用)なども防ぐことができます。
当院での退院時には、基本的にステッキ杖を用いた屋外歩行(およそ300m)、階段昇降などが可能となっています。
A:
金属アレルギーの方でも使用しやすい人工関節も複数ありますので、御相談いただけたらと思います。必要に応じて、専門医へ紹介しアレルギーチェックなども行います。
A:
両方の膝を同時に人工関節を行うことは可能です。当院での人工膝関節のおよそ3人に1人は両膝同時に行っています。入院期間は数日長くなりますが、十分歩いて退院することが可能です。
A:
当院の平均手術時間は、片足で1時間前後です。両足であっても2時間程で終了します。
A:
手術費用についてはこちらをご参照ください。また手術と入院にかかった医療費については自己負担額が払い戻される制度を使用することも可能ですので、お気軽にスタッフまで御相談ください。
A:
入院期間は片足の手術で8〜10日、両足で約12日です。
自宅からリハビリ通院を行うことが困難な患者さまは、当院退院後、自宅近くのリハビリ病院へ転院することも可能です。
A:
患者さまのお手伝いは当院のスタッフが対応させていただきますので必要ありません。
A:
手術後3ヶ月間は、週2回程度のリハビリ通院が必要です。それ以降は、患者さまの状態に応じて調整致します。また、当院が遠方でリハビリ通院が困難な患者さまは、自宅近くの整形外科病院へ紹介状を記入することも可能です。
医師による定期的な検診は、手術後3週、1.5ヶ月、3ヶ月、6ヶ月と徐々に伸びていき、手術後1年からは年に1回の検診となります。
A:
船橋整形外科病院では手術中は経験豊富な麻酔科医の管理のもと、患者さまの術後の痛みを少しでも軽減出来るように、全身麻酔に術後鎮痛のための神経ブロックを併用して麻酔を行っています(当院の麻酔科についての詳細はこちらから)。また神経ブロックの効果がなくなった後は、鎮痛薬の点滴や内服で痛みを軽減させてリハビリを行っています。
A:
駆血帯と言われるバンドを用いて血流を断って手術を行うため、手術中の出血量は少ないです。しかし手術終了後は、膝関節内や周囲にある程度出血が生じます。
当院では、手術中に膝関節内に止血剤を注射して出血量を減らす工夫をしています。両側膝を同時に手術を行った場合でも、ほぼ輸血が必要となることはありません。
以上が人工膝関節置換術を受けられる患者さまからよくある質問です。
他にもなにか質問があれば医師、スタッフにお気軽にご質問ください。
以上で今回の「膝の痛みがある方へ 。それもしかしたら変形性膝関節症かもしれません。」のコラムを終了させていただきます。
執筆者 医師:二宮太志 看護師:金子誠
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