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2022.03.29
船橋整形外科病院では野球肘に対して年間約150件の手術加療を行っています。年齢は小学生から社会人まで様々で、競技レベルもアマチュア選手からプロ野球選手まで幅広く来院されています。今回はその経験をもとに、野球肘についての説明と解説を行っていきたいと思います。
野球肘とは、ボールを投げる動作によって肘が痛くなる肘の障害の総称です。野球肘は野球やソフトボール、やり投げなどの物を投げる動作だけでなく、テニスのようなラケットを振る動作で肘に強い力がかかるスポーツでも生じます。野球肘は子供だけでなく大人にも発症し、痛みのでた時期によって以下の2つに分けられます。
(1)少年期野球肘: 骨端線(成長線)閉鎖前の成長途上の骨端線や骨軟骨の障害
(2)成人期野球肘: 骨端線閉鎖後の骨、関節、靭帯の障害
野球肘は繰り返しボールを投げたり、ラケットをふることで肘に強い力がかかり、骨(骨端線)、軟骨、靭帯、筋肉に負担がかかり発症します。特に投げすぎによる野球肘が最もよく知られていますが、「肘下がり」「手投げ」「体の開きが早い」「全身の柔軟性の低下」などの不適切な投球フォームや、速い球を投げる、遠くに球を投げるなど、たった1球でも肘に大きな負担がかかると野球肘が発症することが知られています。最近ではボールの種類や大きさ、球種なども野球肘の原因になることがわかってきています。
肘には上腕骨(肩側)、橈骨・尺骨(手首側)の3つの骨があります(図1)。ボールを投げるときには以下のそれぞれの部位に強い力が加わり、少年期には成長軟骨や骨端線、成人期には骨や関節、靭帯に負担がかかります。肘の内側(小指側)には骨をつなぐ靭帯やボールをにぎったり押し出す筋肉がついています。したがってボールを投げるときには、内側には関節が離れようとする力(牽引力)が加わります。外側(親指側)では骨と骨(関節)がぶつかる力(圧迫力)が加わります。後ろ側(後方)では関節がぶつかる力(圧迫力)が加わります。(下の図)
野球肘の主な症状は、ボールを投げる時や投げた後に肘が痛くなることです。1球で痛みが出て投げられなくなるものや、徐々に痛みが出て痛みが慢性化するものがあります。多くは日常動作で痛みを感じることはありませんが、症状がひどくなると日常生活での肘の曲げ伸ばしで痛みを感じたり、肘が急に動かせなくなることもあります。また、頻度は低いですが、手の小指側(尺側)にしびれや力の入りにくさが起こることもあります。その結果、全力でボールを投げられなくなったり、遠くまでボールを投げられなくなることもあります。
野球肘は肘の痛む部位から内側型、外側型、後方型、その他の4つに分けられます。
代表的な疾患 |
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内側型野球肘 |
少年期:内側上顆障害 内側上顆裂離損傷(剥離骨折)、 内側上顆骨端線閉鎖不全(骨端線離開) 成人期:内側側副靭帯損傷、尺骨神経障害 |
外側型野球肘 |
少年期:肘離断性骨軟骨炎 成人期:滑膜ひだ障害 |
後方型野球肘 |
少年期:肘頭骨端線閉鎖不全 成人期:肘頭疲労骨折、後方インピンジメント症候群 |
その他 |
少年期:関節内遊離体(関節ねずみ) 成人期:関節内遊離体(関節ねずみ)、変形性肘関節症 |
投球動作では、加速期に腕が前方に振り出される際に、肘に強い負荷(外反ストレス)が肘の内側の骨の出っ張り(内側上顆)に加わります(下の図)。さらに、その後のボールリリースからフォロースルー期でも手首が背屈(手の甲側に曲がること)から掌屈(手のひら側に曲がること)、前腕は回内(内側に捻ること)、指は屈曲(指が曲がること)に素早く曲がるため、肘の内側に強い負荷が加わります。この動作の繰り返しにより、年齢によって構造的に最も弱い部分に負荷がかかり損傷が起こります。
肘の内側の骨の出っ張り部分(内側上顆)にある成長軟骨が障害されます。徐々に肘の痛みが出て、初めのうちは投球後数時間で痛みはおさまりますが、そのまま投球を続けていると痛みがおさまりにくくなります。
内側上顆障害とよく似ていますが、これはある1球を投げた時から急に痛みが出ます。肘の内側の出っ張り部分(内側上顆)の成長軟骨や骨が割れたもの(裂離といいます)で、痛みが強いことが多いため2-4週間程度の安静、場合によっては肘の固定が必要なことがあります。
中学生頃に肘の内側の出っ張り部分(内側上顆)の成長軟骨と上腕骨の間は成長とともに癒合します。しかし、強い負荷が繰り返しかかると癒合せずに痛みの原因となることがあります。またある1球を投げた時から急に痛みが出ることもあります。投球時に内側の筋肉に引っ張られて肘の内側の出っ張り部分(内側上顆)の成長軟骨が上腕骨からはがれた状態です。ずれが大きい場合は手術が必要になることがあります。
通常骨端線が閉鎖した高校生以上で起こります。前述の投球動作の繰り返しにより、肘の外反を制御する内側側副靭帯が障害され発症します。スキーの転倒のような1回の外力で靱帯が完全に断裂する場合と異なり、野球肘では繰り返す牽引により、内側側副靱帯が部分的に損傷したり変性します。
長年野球をすることにより肘に変形が起こり、この変形によって内側の神経(尺骨神経)が圧迫されたり、肘周辺の発達した筋肉が神経を圧迫したりして小指や薬指にしびれが出ることがあります。投げているうちにしびれが出て投げられなくなることもあります。投球の休止、腕の筋肉のストレッチ、フォームや体の硬さなどの問題を改善します。こうした治療で改善しない場合には手術が必要となることがあります。
投球動作の加速期における外反ストレスによって、腕橈関節と呼ばれる肘関節の外側(下の図)に圧迫力が働き、さらにフォロースルー期で関節面に捻りの力も働きます。このストレスの繰り返しにより生じるのが外側型野球肘です。
10歳前後で発症することが多く、野球肘で最も重症になる障害の1つです。発症してすぐは、痛みや動きの制限などはありませんが、じょじょに運動時痛(曲げ伸ばしによる痛み)や可動域制限(曲げ伸ばしの制限)が起こる場合があります。ひどくなると病巣部の軟骨片が遊離して関節内遊離体(関節ねずみとも呼ばれます)になり、引っ掛かり感や肘が動かなくなるロッキング(関節ねずみが関節の中に挟まり、肘がある角度で動かなくなること)をきたすこともあります。
投球で肘を伸ばしたとき(フォロースルー)に肘の後外側にある膜が骨に挟まって痛みを出します。
ボールを投げるとき、フォロースルーでは肘が伸びますがこの時に肘の後方に衝突するようなストレスを受けます。この動作の繰り返しにより骨端線、骨、骨軟骨が痛みます。
骨端線が閉鎖する前の小学生から中学生で起こります。フォロースルーで肘が伸びる際に肘の後ろで骨同士の衝突が起こり、骨端線が開くような力が働きます。これにより骨端線の癒合が遅れたり、骨端線部分で骨が離れてしまい、骨折のようになることがあります。
骨端線が閉鎖した中学生から高校生以降で起こります。フォロースルーで肘の後ろで骨同士の衝突が起こり、これを繰り返すことで疲労骨折が起こります。
投球を繰り返すことで少しずつ骨に棘(とげ)のような余分な骨ができてくることがあります。これを骨棘(こつきょく)といいます。投球で肘が伸びたときに、肘の後ろで骨同士の衝突が起こり痛みを出します。
少年期の肘離断性骨軟骨炎をそのままにしておくと病巣部から軟骨片がはがれる関節内遊離体(関節ねずみ)や骨棘(こつきょく)ができる変形性肘関節症になります。
少年期や成人期でも起こります。関節ねずみと言われる軟骨片が関節で引っかかる際の痛みや急な動作制限(肘ロッキング)を起します。
少年期の肘離断性骨軟骨炎を放置して進行してしまうと通常では中高年以降に起こる肘の軟骨がすり減って骨にも変形をきたす状態にもなりえます。また成人期でも投球を続けていくと変形や肘遊離体(関節ねずみ)の原因となります。
医師による圧痛部位の検索が重要です。また肘関節の可動域の確認も行います。そのほか整形外科的テストを行います。(後述の図参照)
実際にどの部位が損傷を受けているのか確認するために、以下の画像検査を行います。
骨の異常を確認する際に使用される検査です。一般的には肘関節2方向(正面像、側面像)が撮影されますが、野球肘の場合は45°屈曲位正面像を追加して撮影しています。また両肘のレントゲン撮影をして左右の比較を行います。
内側型野球肘では肘内側にある骨(内側上顆)の骨の不整や肥大、骨端線の離開、裂離骨折が確認できます。
外側型野球肘では肘外側にある骨(上腕骨小頭)の変形や欠損、遊離した骨片が確認できます。病巣部の進行状況に応じて透亮期分離期遊離期に分けられます(下の図)。
後方型野球肘では尺骨肘頭部の骨端線の離開や疲労骨折が確認できます。
その他の変形性関節症や関節内遊離体(関節ねずみ)が確認できます。
筋、腱、靭帯、軟骨の異常を確認する際に使用される体への負担がない検査です。
内側型野球肘では内側の裂離骨片や靭帯損傷の有無、関節の緩みなどが確認できます。
外側型野球肘では肘外側にある骨(上腕骨小頭)の軟骨の状態が確認できます。特に肘離断性骨軟骨炎肘離断性骨軟骨炎の初期ではレントゲン検査では見つからないこともあるため有効な検査法です。最近は全国各地でこの超音波エコーを用いた野球検診が行われるようになりました。これは肘離断性骨軟骨炎肘離断性骨軟骨炎を早期に発見し、重症になる前に治療を行うために行われています。
骨の異常を詳細に確認する検査です。レントゲンに比べて細かい情報を得ることが可能です。特にレントゲン検査で分からない関節内遊離体(関節ねずみ)や変形の程度がわかります。
筋、腱、靭帯、骨、軟骨の異常を詳細に確認する検査です。超音波に比べて細かい情報を得ることが可能です。
野球肘の治療法は個々の患者さんで異なります。ポジションやチームの練習状況、野球(投球)の継続を希望するか否か、また今後どの程度の競技レベルを目指すのかなど、患者さんやご家族と十分に話し合った上で治療方針を決定すべきと考えています。当院では肘自体の圧痛、可動域制限がある場合は一定期間の投球禁止による安静を行ってもらいます。同時に、肘以外の症状に合わせて下半身や体幹、肩まわりなど全身の柔軟性や筋力の改善・強化を行ないながら、段階的に肘周りの筋力強化、投球動作のチェックなどを行っていきます。野球肘は、基本的には肘の使い過ぎや過剰な負荷によるところが大きいため、肘自体の症状が改善するまでは練習日数や時間、投球数の制限、ポジションの変更などが必要になってきます。また、投球フォームにより肘に負担がかかりすぎることもありますので投球フォーム指導を行い段階的に投球開始しています。腕立て伏せや跳び箱、ドッジボールなど、肘関節に大きな負荷のかかることは禁止します。ただし肘にあまり負担のかからないランニングやバント練習、守備練習(ノックで捕球動作~送球の構えまで)バッティングなどの肘に直接負担がかからない運動は許可しています。以下野球肘の部位別の治療法について説明します。
骨端線閉鎖前の内側上顆障害、内側上顆裂離損傷(剥離骨折)、内側上顆骨端線閉鎖不全(骨端線離開)では保存加療が行われます。徐々に痛んでくる場合は、痛みや可動域制限が軽度であれば、数週間〜数ヶ月の投球中止によって肘の痛みが軽快することが多いです。投球中止のあいだは、保存療法として運動やストレッチなどのリハビリを行います。1球で急に痛みが出た場合や痛みが強い場合は固定具を用いて肘を安静に保ちます。その間投球を中止し、フォームや体の硬さなどに問題があればこれを改善します。また1球の投球によって急な痛みが出て損傷や離開の程度がひどい場合は手術が選択されることもあります。
骨端線閉鎖後の内側側副靭帯損傷も原則保存療法が行われます。靭帯周りのうちがわの筋肉(回内屈筋群)は靭帯と連続し、外反ストレスから靭帯を守る役割があります。したがってそれらの筋を強化するリハビリ治療を行います。
最近では体外衝撃波治療(ESWT)や多血小板血漿(PRP)治療という再生医療なども行っています。
一定期間(3から6か月)の保存療法を行ってもパフォーマンス低下や痛みが残り、高いレベルでの競技復帰を希望する場合にはトミージョン手術と呼ばれる靭帯再建術を行います。手首のすじ(腱)を肘に移植して靭帯を再建します(下の図)。復帰には1年から1年半ほどかかるので、ハイレベルの競技活動の継続を希望する選手や不安定性(機能不全)により肘の内側を走行する尺骨神経に障害を来すケース、強い痛み・不安定感により日常生活に支障を来すケースなど限られた患者さんのみに行っています。
骨端線閉鎖前の初期例(透亮期や分離期の一部)や、病巣部が大きくない場合は投球禁止、肘の安静による保存療法を行い病巣の修復、治癒をまちます。しかしその場合6か月から1年間、場合によっては1年以上の長期にわたり投球動作を禁止することが一般的におこなわれている治療法です。当院では投球禁止をなるべく短くするためにリハビリテーションを行い、肘周りの痛みや可動域、投球フォームの改善が確認できれば、病巣の修復を待たず投球を再開しています。野球を継続しながら外来通院もあわせて行い、病巣部を定期的に観察します。一方で痛みを我慢して投球を続けていると障害が悪化し、場合によっては手術が必要になることもあります。手術加療の適応は保存加療でもよくならない、進行例(分離期後期・遊離期)、病巣が大きく保存療法での治癒はほとんど期待できない例に対して行います。とくに肘の曲げ伸ばしの制限が強い、肘がロックして動かせない(肘ロッキング)、日常生活動作に支障がある場合などは、早めの手術を勧める場合もあります。骨の成長の度合い、病変の進行具合、病変の大きさなどにより手術方法が変わります。当院で行われている具体的な手術方法としては、以下が挙げられます。
肘頭骨端線閉鎖不全や肘頭疲労骨折は保存加療が第一選択です。リハビリテーションによる投球動作の改善を行ったり、体外衝撃波を行って肘自体の痛みの軽減や骨癒合を目指す場合もあります。病巣部の改善がなく投球時痛が持続する場合は手術加療を行います。手術療法には観血的固定術や骨釘術などがあります。
後方インピジメント症候群では肘頭、肘頭窩での骨棘(こつきょく)形成、あるいは骨棘骨折による遊離体などを認め、リハビリテーションによる保存療法行っても動作時痛や可動域制限、競技力の低下をきたしている場合手術療法を行います。手術は関節鏡視下に骨棘(骨の出っ張り)を切除したり、遊離体を摘出することなどで関節の動きを改善・痛みの軽減を図ります。
関節内遊離体(関節ねずみ)や変形性肘関節症は保存加療が第一選択です。関節内注射による炎症の軽減を行うこともあります。可動域制限や投球時痛が持続する場合は手術加療を行います。手術には関節鏡視下遊離体切除、関節形成術を行います。
野球肘を予防するためには、肘にかかる負担を軽減することが大切です。ボールを投げる動作は全身を使います。下半身から生み出された力が上半身へと伝達され、最終的に手や腕でボールに力を伝えます。下半身や体幹の動きが悪いと肩や肘や手が必要以上に大きく動かされる、いわゆる手投げの状態となり、野球肘の危険性が高まります。
肘内側障害は、投球動作中の腕が一番しなる時に痛みが出やすいとされています(写真1)。肘を外側に引っ張る力が急激に加わり、内側の靭帯や筋肉が強く引き伸ばされることで障害につながります。予防するためには、肘の内側につく筋肉の柔軟性と筋力を高めることに加え、上半身から下半身まで柔軟に動く必要があります。猫背の人は肩甲骨や背骨の動きが悪くなり野球肘になりやすいとの報告もあるため、姿勢の改善も大切です。
肘外側障害は投球動作中の腕がしなる時やリリース直後に痛みが出やすいとされています(写真1、2)。肘が外側に引っ張られた時、外側の関節に圧迫やずれる力が加わることで障害へとつながります。特に手首を内側にひねった時には外側の関節への圧が高まるとされており、予防のためには手首をひねる動きが柔軟であることが大切です。
肘後方障害はリリース時に痛みが出やすいとされています(写真2)。リリース時は肘を外側に引っ張る力に加えて、肘を伸ばす力が強く働き、肘の後方で骨が衝突することで痛みを生じやすいとされています。予防のためには、肘の曲げ伸ばしの動きを柔軟に保つことや肘を伸ばす筋肉の働きを高めることが大切です。また、リリースがダーツを投げる動作のように肘から先だけを動かす投げ方になると痛めやすいため、全身を柔軟に使って投げることも大切です。
圧痛
写真3-赤 上腕骨内側上顆(リトルリーグ肘) 肘の内側で最も突出した部位
写真3-青 屈筋群起始部周辺(内側上顆炎) 肘の内側で最も突出した部位よりも手首側
写真3-黄 内側側副靭帯(内側側副靭帯損傷)肘の内側で最も突出した部位の前面で手首よりの部分
写真4 上腕骨外側部(肘離断性骨軟骨炎) 肘を最大まで曲げて正面で最も突出した部位の外側部分
写真5-赤 肘頭(肘頭骨端炎) 肘を軽く曲げ肘後方で最も突出した部位
写真5-青 肘頭窩(肘頭骨端炎) 肘頭のすぐ肩側の凹んでいる部分
写真6
肘伸展:胸の前で肘を伸展させる。左右差がないかを確認する。合わせて肘関節の外反(外に曲がる)についても左右差がないかチェックする。
写真7
肘屈曲:肘を体側部につけた状態で、指が肩に触れることができるかチェックする。
写真8
手関節背屈:左右を比較しながら、背屈制限やストレッチ痛の有無をチェックする。
写真9
手関節掌屈:左右を比較しながら、掌屈制限やストレッチ痛の有無をチェックする。
写真10
前腕回外:肘を体側部につけた状態でペンを握って内側に捻り、床と平行になるかチェックする。
写真11
前腕回内:肘を体側部に付けた状態でペンを握って外側に捻り、床と平行になるかチェックする。
写真12
肩の外旋(外ひねり):うつぶせになって肘をつき、腕を外側にひねる。
※左右で差がないかを確認する。
写真13
肩の挙上と肩甲骨の動き:うつぶせで片手を額に置き、もう片方の手をあげる。
※腕の付け根からあがっているかを確認する。左右で差がないかを確認する。
写真14
上半身のひねり:四つ這いで手を頭の後ろに置いて、天井をのぞくように上半身をひねる。
※下半身が動かないように注意する。左右で差がないかを確認する。
写真15
前腕から指にかけてのストレッチ:手の平を上に向けた状態で肘を軽く曲げ、人差し指と中指に反対の手を引っ掛けて肘を伸ばしていく。赤い部分に伸び感があると良い。
写真16
前腕内側のストレッチ:手の平を上に向けた状態で肘を軽く曲げ、薬指と小指に反対の手を引っ掛けて肘を伸ばしていく。赤い部分に伸び感があると良い。
写真17
前腕外側のストレッチ:手の甲を上に向けた状態で肘を軽く曲げ、手首を下に倒して肘を伸ばしていく。赤い部分に伸び感があると良い。
写真18
肘の痛みが強い時のテーピング:矢印の方向に巻く。肘が吊られているような感覚を自覚できると良い。
写真19
投球時に肘内側や外側に痛みがある時のテーピング:最初に赤矢印の方向にテープを巻き、その後黄色矢印(テープの始まりと終わり)を一周するように巻く。
全力投球数は、小学生では1日50球以内、試合を含めて週200球以内、中学生では1日70球以内、週350球以内、高校生では1日100球以内、週500球以内が目安です。これ以上投げると肘関節障害のリスクが高まると言われています。
練習日数と練習時間は、小学生では、週3日以内、1日2時間以内、中学生・高校生においては、週1日以上の休養日をとることが推奨されています。個々の選手の成長、体力と技術に応じた練習量と内容が望ましいです。
以上で野球肘についての解説を終わらせていただきます。最後に患者さまから良く質問される内容をQ&A形式でまとめました。
A.サポーターやテーピングは、外反方向へかかる牽引力を軽減したり、痛みを軽減する効果があります。テーピング方法によっては、投げにくくなったり、肘関節以外への負担を大きくしてしまう場合があり、正しい方法で行うことが大切です。
マッサージは、硬くなった筋肉をほぐす効果があり、コンディショニングとしては有効です。
A.練習前後のストレッチは、すべての障害を予防する意味でとても大切です。肩や肘のストレッチングは必ず行いましょう。また、ピッチングは全身運動なので、股関節や体幹の柔軟性も必要です。肘関節に限れば、前腕屈筋群、伸筋群のストレッチングがポイントになります。
A.野球肘は子供だけでなく大人にも起こり、痛みのでた時期に応じて少年期野球肘と成人期野球肘の2つに分けられます。
A.ピッチング後のアイシングも有効です。ただし、痛みを感じたり、投球数が多くなったりしても、アイシングをすれば大丈夫ということではありません。
A.安静やアイシングなどで痛みの軽減を図ることは可能ですが、根本的な原因解決には至らない可能性もあります。
A.絶対に野球肘にならない投げ方はありません。どんなにきれいな投げ方でも投球数が多ければ肘を痛めるリスクが高まります。また、ポジションや体格などでも野球肘のリスクは変わります。
A.野球肘に対しての肘関節鏡は年間150件程度行っています。
A. 野球肘の手術で最も多い肘関節鏡の手術費用は約13万円です。肘離断性骨軟骨炎で更に骨軟骨移植が必要な場合は約5万円が加算されます。成人期内側型野球肘に対する肘靭帯再建術の手術費用は約15万円です。いずれも入院期間は4日間です。手術費用以外に、食事代やリネン代など入院に必要な費用も発生します。また中学生以下の患者さんの医療費は、お住いの市区町村によって患者さんの一部負担金が異なりますので、詳しくは病院係までお尋ねください。
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執筆者 医師:星加昭太 理学療法士:山野拓也 永田拓也
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